企業のマーケティング部門では、多様なツールやプラットフォームを駆使したデータ収集・分析がおこなわれています。しかし、それぞれのデータが分断され、顧客行動やマーケティング活動の全体像や売上への貢献度合いが見えにくくなっているケースも少なくありません。
そんな背景から、データ連携の必要性はますます高まる一方、多くの企業がその実現に苦慮している現状もあります。
本コラムでは、ある企業のマーケティング活動の失敗事例を元にしながら、データ連携の必要性が増している背景や、企業が直面しやすい問題、成功事例を紹介します。
筆者:
CData Software Japan 合同会社
パートナーサクセスチーム リードエンジニア 杉本 和也
みなさんの組織ではマーケティング活動がどのように売上に貢献できているか、もしくはうまく貢献できていない施策が何か明確に数字として捉えることはできていますか?
本コラムではマーケティング活動におけるデータ連携・データ基盤構築に関するポイントを解説しますが、まずとても耳が痛い事例として、データの分断がもたらしたマーケティングの失敗についてお伝えし「データ連携がなぜマーケティング活動において重要なのか?」について迫ってみましょう。
あるBtoB サブスク型サービスを提供する企業では、リード数拡大のためにWeb広告投資を前年比で3倍近くまで増やしました。Web広告を含めたマーケティングによるリード獲得から商談化、売上までのパイプラインの型がある程度見えていたことから、社内では「マーケティングへの投資拡大によりリード数を増やせば事業成長につながる」という仮説が立っていたからです。
しかし、Web広告予算を増やしたことでリード獲得数は大幅に伸びたものの、売上は予想を大きく下回りました。
とはいえマーケティングとしてはリード獲得は想定していたKPIを達成しており、社内ではインサイドセールスやカスタマーサポートなど、マーケティング以外のあらゆる部門で売上が伸び悩んだ原因の調査に奔走しました。
この問題は1年後にMA・SFA・CRMのデータを連携して分析した結果、Web広告からのリード獲得や製品トライアルのコンバージョン率は良好だったものの、商談化率と受注率が極めて低いことが判明したのです。担当者いわくROIとしては10%という恐ろしい数字だったそうです。
そこからその企業はWeb広告内容・コンテンツの見直しと、マーケティング予算の振り分けの適正化を図り、売上の不振からは脱することができました。しかし、およそ1年のWeb広告への投資は大きな勉強代となりました。
さて、なぜこの企業はこのような問題の特定に1年もの時間がかかってしまったのでしょうか?もっと早く費用対効果が判明していれば、ダメージは最小限に抑えることができたはずです。それは自社の各種データの分断が背景として存在しています。
現在私達は様々な広告管理ツール・MA・SFA・CRM・ERP等のクラウドサービスを利用しながら、オペレーションの最適化、スケールを意識したビジネス展開を行っています。しかしながら、各オペレーションは最適化されるものの、それぞれのデータが連携されていなかったため、インサイドセールスや営業はコンバージョン獲得経路や閲覧コンテンツを把握できず「私達はこんなに頑張っているのに、なぜ売上に繋がらないのか?」という疑問だけが残っていました。
それが、データ連携を行い、データ分析基盤を実現したことで、ようやく広告経由リードのコンバージョン率の低さが明らかになり、対策を打つことができたのです。
もちろん私達は様々な施策、挑戦に対して臆病になるべきではありません。ビジネス拡大のための仮説を持ち、アクションを行ったのであれば、その挑戦は評価されるべきです。しかし、その仮説・挑戦に対する結果・実績を素早く把握できていれば、より効率的に予算やリソースを再分配できたことでしょう。
このような失敗を繰り返さず、自社の環境で再現しないために、私達はどのようにデータ統合に取り組むべきなのでしょうか。ここからはこの事例に基づきながら、改めてデータ連携の必要性の背景を紐解き、データ分析基盤構築への取り組み方のポイントを解説していきます。
前の章でも原因として触れた通り、データ連携の必要性が高まっている背景には、企業が扱うデータの「サイロ化・分散化」の問題が存在しています。
企業が利用するSaaSの数は急増しています。BetterCloud社が実施した調査によると、米国では2021年時点で1社あたり平均110種類ものSaaSを使用していると分かっています。マーケティング領域でも、SNS運用、MA、SFA、CRM、Web解析ツールなど、様々なツールが利用されています。
これはマーケティング部門に限った話ではなく、インサイドセールスや営業、カスタマーサポート、バックオフィスとビジネス全体に渡って共通している話です。
これらのツールは、個別の業務やプロセスを最適化・効率化する一方で、データの分散を招く恐れがあります。
データの分散化は、マーケティング活動全体を通したオペレーションの最適化、タイムリーな分析、意思決定を困難にします。特に、顧客とのLTVを重視するサブスクリプション事業を展開している場合、この問題は顕著になりやすいとされています。
さらにこのデータ連携の必要性が増している背景として、マーケティング組織の責任範囲が広がっているという点も見過ごすことはできません。
かつてのマーケティング組織では、市場調査やプロモーションが主な責任範囲でした。しかし、今ではリード獲得、ホットリード創出、収益への直接的な貢献まで求められています。これらの要求に応えるには、データを活用した意思決定はもちろん、マーケティングの収益貢献を可視化することが必要です。
とはいえマーケティング部門が商談や売上のデータを持っているわけではありません。それは営業チームが管理しているSalesforceなどのSFAや販売管理システム、バックオフィスが利用しているERP・基幹システム、もしくはECを運営している企業であればそのECサービス上などで管理されていることがほとんどでしょう。
それらのデータをマーケティングチームが持つデータ資産、リード・顧客データを中心に統合しなければ、前の章で述べたような「どのリードソースからの流入が売上に貢献できていないのか?」といった適切な分析に繋げることはできません。
それではデータ連携を実現することで、日々マーケティング活動・施策に様々な好影響をもたらされるのでしょうか? ここでは、主な3つのメリットを取り上げます。
適切なデータ連携が実現すれば、マーケティング活動と実際の受注データを紐づけられます。これにより、どのマーケティング施策が実際の売上に貢献しているかを正確に把握できるようになります。
さらに、分析データを活用すれば、より効果的な施策に予算を集中させたり、パフォーマンスの低い施策を改善したりすることも可能です。データ連携は、結果としてマーケティングROIの向上にもつながります。
通常MAツール単体では顧客のコンバージョンまでが収集できるデータの限界になります。しかしながら、現在はサブスクリプションビジネスが多くなってきているのに伴い、LTVを意識したマーケティング・キャンペーン施策が重要視されています。
そのようなマーケティング施策を実施する場合にはその顧客が自社のどのような商品を購入・契約しているのか、もしくは現在商談などを実施しているのかどうかといったデータが無ければ、顧客毎に最適化された施策を打つことはできません。
この課題を売上を含めたデータ連携により、顧客をより適切なセグメントに区切って、コンテンツの出し分け・メルマガ配信などのキャンペーンを実施できるようになります。
データ連携によって、これまで各部署や各ツールからデータを個別に抽出し、手動で統合していた作業を自動化できます。これによって、マーケターはデータの収集よりも分析・活用に多くの時間を割けるようになります。
分析によって顧客行動をリアルタイムで把握できれば、高頻度で施策を改善し、成果に結びつけることができます。
マーケターの役割はデータを収集することではなく、データを活用して成果を生み出すことです。データ収集の時間を減らし、分析にあてる時間を増やすことで、マーケターの生産性を向上させることができます。
ここまでデータ連携の必要性と活用によるメリットを解説してきました。それではこのようなメリットを享受するための最適なアプローチとはどのようなものでしょうか?
そのためにはまず私達がこれから扱おうとしている莫大なデータ、つまり「ビッグデータとは何か?」というのを改めて意識する必要があります。
ビッグデータは「Volume(量)」「Varietly(多様性)」「Velocity(速度あるいは頻度)」「Veracity(正確性)」といった要素を高レベルで備えていることが特徴です。単純にVolumeだけを意識されることが多いですが、それだけではビッグデータの特徴を捉えているとは言えません。前の章でも述べたように私達は様々な種類のデータを素早く、正確に把握する必要があるのです。その特徴を効果的に使うことがマーケティングデータの分析基盤には求められます。
単体のMAツールやCRMツールでも分析するための機能は備えていますが、多様なデータを格納するための仕組みや数万・数億レコードものデータを効率的に分析するためのアーキテクチャは備えていないことがほとんどです。
そこでクラウドが発展している現在では、Google Cloud が提供するBigQueryやAWSが提供するAmazon RedShiftなどのDWH(データウェアハウス)を中心とし、ビッグデータの「収集」「蓄積」「活用」の3点を意識したデータ分析基盤のアーキテクチャを取り入れることで先の要件に柔軟に対応することが可能となります。
その中でも「収集」を担う「データ連携」機能はすべてのデータ分析基盤を活用する上でのすべての土台となります。この「データ連携」が大量かつ様々な種類のデータを素早く、正確にDWHに届けることができなければ私達はいくらデータが存在しようとも適切にビジネスへ活かすことはできません。
しかし、データ連携と一口に言っても単純なものではありません。次の章ではデータ連携の流れの全体像を踏まえて、注意するべき問題とその対応方法について述べます。
データ連携の流れには、大きく分けて4つのステップがあります。
1.データソースの特定
MAや Web解析情報、CRM、その他のSaaSツールなど、様々なデータソースを特定する
2.適切なツールの選定
自社が統合したいデータソースに対応できるツールを選ぶ
3.データ統合とクレンジング
選定したツールを使ってデータを統合。必要に応じてデータのクレンジングをおこない、データの品質や一貫性を確保する
4.データの可視化と活用
データウェアハウスにデータを格納し、BIツールでダッシュボードを作成する
これらのステップにより、組織全体で共通のデータを閲覧できる環境が整います。共有されたデータは、施策の最適化や迅速な意思決定に活用できます。
前述の通りデータ連携は多くの企業にとって意義ある取り組みですが、その実現には様々な障壁が存在します。
データを統合する過程で、「APIの仕様がサービスによって異なり、連携が難しい」という問題に直面することがあります。
「APIが公開されていれば連携は容易」という思い込みは危険です。実際には以下のような障壁が存在しています。
仕様の違い
各サービスのAPI仕様が異なり、連携には個別の開発が必要となる
リソース不足
各APIの理解と実装に膨大なリソースが必要となる
データ品質への影響
API連携の不備は、データの品質、精度、鮮度に影響を与える
これらの問題によって適切なAPI連携を実現できないと、統合したデータを基にしたデータ活用は困難になります。また、データの正確性を担保できていないと意思決定に迷いが生じ、結果として意思決定の速度と精度の低下を招きます。
これらの問題の解決には、データ統合に特化した専門的なツール「データパイプラインツール」の活用が有効です。データ統合のために開発されたツールを使用すれば、スムーズにAPI連携を進められるうえ、高品質なデータ統合を実現できます。
社内でデータ統合に取り組もうとする際、セキュリティ面での懸念から、上層部や他部門に難色を示されることがあります。よく挙がる理由は以下2つです。
・データ移動時のリスク
特に個人情報を含むデータを複数のツール間で移動させる際、どのようにデータを扱うべきかという問題が生じる。そのため、データ移動のルールについて慎重な検討が必要となる
・アクセス権限の管理
あるツール内では問題なく扱えるデータでも、別のデータウェアハウスに移す際には新たな承認プロセスが必要になる場合がある
これらの懸念に対処するためには、データガバナンスとセキュリティを担保するプラットフォームの選択が求められます。各種クラウドプラットフォームではデータガバナンスのための専用のサービスなどを備えていることがあるので、それらをうまく自社で利用できるかどうか確認するのも良いでしょう。
データの連携はビジネス成長の基盤にはなりますが、データを統合するそのものが直接的にROI向上に影響するわけではありません。あくまで、統合したデータを活用し、何らかの施策を打つことでビジネス成長へと繋げていきます。
もちろん先の事例で述べたようなリスク軽減に繋がる側面は多くあります。
そのため、稟議を通すための投資対効果の説明に苦慮するケースは少なくありません。
経営層を納得させるためのポイントとして、以下のようなアプローチが考えられます。
・施策効果の最大化を目的とすることを強調する
キャンペーンの施策効果を最大化し、より効果が高い部分にリソースを分配できようになることを伝える
・リスクを挙げる
データ環境不備により起こりうるリスクを示す
・成功事例を共有する
データ統合で成果を上げている企業の事例を紹介する
これらを組み合わせることで、直接的なROIを示せなくても理解を得られる可能性があります。売上への直接的な影響を示せなくても、ビジネスを最適化するという観点から説明するのがおすすめです。
データ連携・分析基盤構築の重要性は理解していても、実際にどのように進めるべきか悩む企業は多くあります。ここでは、データ連携に成功した学校法人様の事例を紹介します。
この学校法人では、社会人向けの経営大学院やビジネススクール、学習クラウドサービスを提供しています。
同社のマーケティング部門CRMデータ活用チームは、複数のSaaSツールを使用していましたが、データの分散化とサイロ化に直面していました。
具体的には以下のような問題が発生していました。
・各SaaSツール間でデータの分断が起きている
・キャンパスごとのデータがサイロ化している
・データの分析手法が統一されていない
・データ分析に多くの時間を要し、本来の業務に支障をきたしている
これらの問題解決に向けて、この学校法人では全社的なデータ分析基盤の構築に取り組みました。
データ分析基盤構築への取り組みの結果、全社で同じデータを確認できる環境が整いました。マーケティングと経営の連携は強化され、より効果的な学生募集戦略の立案と実行ができるようになりました。
この学校法人がデータ基盤整備とデータ活用に成功した要因として、主に4つのポイントが挙げられます。
・経営層のコミットメント
経営層がダッシュボード上での報告を全社的に義務付けた
・分析指標の定義
全社で統一された分析指標を定義した
・現場スタッフの巻き込み
指標定義のプロセスに現場スタッフを積極的に参加させ、当事者意識を高めた
・データ活用文化の醸成
データ活用のための組織文化・土壌作りに並行して取り組んだ
これらの取り組みにより、この学校法人では単なるデータ統合にとどまらず、全社的なデータ活用文化を構築することに成功。効果的な意思決定と施策実行ができる環境も整備されました。
データ連携の取り組みを成功に導くには、常に収益の拡大を意識することが求められます。データ連携に取り組む企業は、特に以下2つに力を入れると良いと考えています。
・売上への貢献を重視したデータ活用
展示会やセミナーなどのマーケティング活動では、単なるリード獲得数や商談数といったKPIだけでなく、具体的な売上貢献度や費用対効果まで追跡できるようにする。リード獲得数や商談創出数といった中間指標でなく、最終的な売り上げへの貢献度を測定できるようになると、より効果的なリソース配分ができるようになる
・データ活用文化の醸成
データに基づいた意思決定の重要性について全社に認識を広める。データを活用する習慣や、データから得られた洞察を尊重する風土を組織内に醸成することは、より効果的なデータ活用につながる
上記のポイントに沿って取り組みを進めると、連携されたデータを事業成長のエンジンとして活用できるようになります。収益拡大を意識したデータ連携によって、ビジネスの成長へと繋げられるデータ環境を構築できます。
CDataとパワー・インタラクティブは、企業のマーケティングデータ基盤整備を総合的に支援しています。
CDataが提供するCData Syncは、約400種類のデータソースに対応し、APIをノーコードで連携できるETL / ELT ツールです。パワー・インタラクティブは、CData Syncを活用したマーケティングデータ基盤整備およびデータ活用のサポートをしています。
パワー・インタラクティブとの協業により、データの収集から分析、活用、組織への定着まで、一貫したデータ活用支援が可能となりました。お互いの強みを活かしながら、顧客ニーズに合わせた最適なデータ活用と、データドリブンな意思決定の実現をサポートしていければと思っています。
CData Software Japan 合同会社 パートナーサクセスチーム リードエンジニア
杉本 和也
日本国内のシステムインテグレーターでMicrosoft クラウドサービス・Dynamics 365 製品の導入支援・API 連携開発・プリセールスを6年経験。コミュニティ活動・Blog 執筆にも力を入れており、Microsoft MVP for Business Applications を2017年~2021年まで受賞。
2017年からCData Japan のリードエンジニアとしてテクニカルサポートをメインに国内SaaS API 向けのDriver 開発・プリセールスを担当し、現在はパートナーサクセスチームでメガクラウドベンダーを含むパートナー企業との協業体制の構築および各サービスとのビジネスデベロップメントをリードする。
2024.09.30
2024.09.24
2024.09.09