Webの成果指標はユニークユーザー数

90年代後半、バブル崩壊後に訪れた経営危機

試行錯誤しながらのスタートでしたが私達にとって1番重要な課題はお客様にどう到達するかということでしたので、常にユニークユーザー数を意識して、とにかく更新回数にこだわりました。何人の人に見てもらえるか、それが重要と考えたのです。毎日午前と午後で異なる情報発信をしてほしいくらいです。 カリモク60の直営店3店舗のホームページは最低でも1週間に2回以上更新するよう指示しましたので、3店舗で1週間に6回以上の更新となり、お客様がWebを見に来る度に新しい情報を提供できるようにしています。 ただ、Webのユーザー数が増えていっても本当にどんな効果があるのか、やる意味はあるのかという疑心暗鬼はずっとありました。これをやめたらどうなるのかと考えたこともあります。ショールームを作ったからといって売上が上がったかわからないのと同様です。

営業にWebを使ってもらうしくみをつくる

企業にとって意味がある活動というのは、売上に貢献していることです。しかし、私達はWebで直販しているわけではありませんから、Webによって売上が上がったかどうかを正確に知る手立てはありません。そこで、Webに確実な存在価値を持たせるために、営業のしくみの中にうまく組み込むことはできないかと考えるようになりました。特に、レギュラーチェーンとの取組みが固まってきたのは、Webの貢献が大きいと思います。

例えば、

1.ユーザーのWeb閲覧動向を根拠に営業を動かす

学習机のシーズンに入り、お客様はWeb上でまず商品を探し、10月には店を探しているというログデータが報告されました。そのデータを元に、営業は家具店へ10月末までに学習机を店に展示して、展示店としてカリモクサイトに掲載されないと損だと伝え、店舗の展示を促進します。

2.店頭の取扱い商品をWebに掲載し、取扱い増加に向けて営業をサポートする

カリモク60では取扱店の取扱商品の家具のアイコンをカリモクサイト上に並べて、取扱い商品の一覧が全て見えるようにしました。お客様は取扱い商品の多い店舗へ行きますので、やる気のある店舗をサポートするしくみができます。

3.店舗ごとのページ更新頻度を管理し、店舗ページの活性化と送客を促進する

カリモク商品を豊富に扱っているカリモクギャラリー店は、カリモクサイト内に専用のページを設けておりプロモーショングループで管理しています。各店舗のページ更新の際は営業経由で店舗から依頼があり、更新アップするのはプロモーショングループが対応しています。更新内容も更新頻度もプロモーショングループで受動的に把握できるしくみです。月1回、プロモーショングループより地区部長にログ解析結果と更新が少ない店舗を報告し、更新が高い店舗は来訪率も高いといった話をして、更新を進めてもらうようにしています。

このように、あくまでもWeb単独で進めるのではなく、情報をお客様に伝えるための1つの手段として、営業にWebを使ってもらうしくみを考えたのです。

営業政策的には、ショールームと店頭の2本柱があり、それを補完するしくみの1つにWebが存在しているという位置づけです。ショールーム戦略と店頭戦略があり、水面下で販路開拓が走っています。販路が無くなる怖さを嫌というほど味わいましたので、できるだけお客様に近い所で商品を作りたいですし、お客様の近くにルートを確保しておきたいというのが今の私達の基本です。

Webの課題は、お客様が見たい情報にどれだけ早くたどりつけるか

大胆な業務改革で、ユーザー中心の製造・営業体制に

以前と比べて、Webの使い方や考え方で何か変わったことはありますか?

Webの使い方を変えなくてはいけないと思うところはあります。まず、モバイル対応ですね。PCでWebを見られるお客様の比率が減り、モバイルが増えていった時の対応がまだ一切できていません。 モバイルで展示店の全検索や、お客様が求める商品情報を簡単に入手でき、カタログ請求もできるように早く対応する必要があると考えています。 それからSNSも課題ですね。ビジネスにどうリンクしてくるのかまださっぱり見えていませんが、やっておかなくてはまずいものだと認識しています。ツイッターはまだよくわかっていませんが、Facebookはなんとなくわかってきました。とにかくやっておくことで次の手段も見えてくると思っています。

もう1つ今後の大きな課題になってくると考えているのが、お客様が見たい情報に少しでも早く辿り着けるようにするために、Webをどのように作っていくかということです。自分に有意義な情報をどう的確に取りに行けるか、お客様の思考回路に合わせてページをめくっていけばスムーズに見たい情報に辿り着けるというしくみにしていきたいですし、肝心のお客様に見せたい情報が引き出しの奥に入り込んでしまっているような状況をできるだけ早く改善したいです。また、潜在下でまだ気づいていない人にどう気づいてもらうかも対策が必要です。

これからは情報が多ければいいというのではなく、削ぎ落とすことによって情報をお客様により一層伝えやすくする工夫が必要だと考えています。いまは、情報過多の時代にあって情報が選べない状況です。 日本人の本質は「引き算の美学」です。欧米は「足し算の美学」で、例えば、絵画であれば油絵でどんどん色を乗せていく。日本人は墨絵が代表されるように引き切った時に本来の美が存在する。フレンチ料理はソースが命といって、いろんなものをミックスしてソースを作っていくけど、日本料理は刺身や寿司で素材の旨みを塩一つで、もしくは魚を寝かせること一つで出してくる。日本人が共感できるものはおそらく引き切ったところに本質があり、情報が多ければいいというものではないと思うのです。 それでいくと現在の私達のサイトはコンテンツが多く、ごちゃごちゃしているきらいがあります。これをどう整理し、どう削除していくか、それを実行するためにも、今後自分たちがWebを使って何をしたいのかということをまずはしっかり話し合って認識する必要があると思っています。

Web担当者には、「企画力」だけでなく、企画を実行できる「調整力」「指導力」が必要。

Web担当者にはどういうスキルが必要と思われますか?

新卒は必ず営業に出されるので、プロモーショングループには営業経験者が配属となります。ただし、営業経験がなくても問題はないと思います。作戦を組み立てるロジックができればいいのです。接客上手なスタッフが企画ができるかというと全く別物です。プラス、体育会系のノリでしょうか。根性があることは基本条件です。それから納期に対しての執着です。

Web担当者としてのスキルは、正直なところよく分かっていません。むしろ逆にこちらが教えていただきたいぐらいです。技術的なところは各業者に助けてもらえると思いますので、Web担当者が技術面でガチガチのプロになる必要はないと思います。 営業推進部として、営業にとって意義がある企画を立てられる能力は必須だと考えています。それから次に必要になってくるのが調整力。組織である以上は1人よがりでは困ります。皆にきちんと企画内容を伝え、それを皆が理解納得し、実行できるようにする調整力、指導力が必須となってきます。 それから着眼力も欲しいですね。よく着眼・着想・着手と私達は言うのですが、着眼は常に意識していないとやれないことです。これでいいのか、何か困っていることはないかと周りを見て常に自問自答できる人間しか着眼は持てないものです。

プロモーショングループの一人前のスタッフになるには5年が必要

営業推進部プロモーショングループのスタッフとして1人前になるにはどのくらいの時間が必要とお考えですか?

一般的に5年くらいは必要だと思います。自分の経験から言っても、5年ぐらいするとある程度の調整力はついてきます。企画というのは比較的すぐに立てられるようになると思いますが、それを実行できるレベルになることは非常に難しいことです。5年くらい、しっかりとやっている姿、苦しんでいる姿を周りに見せることができていれば自然と信頼されるようになるはずです。口がうまいから信用されるのではなく実績があるから信用され、皆が協力してくれることで、企画が実現可能となるのです。実行できなければせっかくの素晴らしい企画も何の意味もありません。

ブランドマネジャーは3年で定期的に入れ替えを余儀なくされてしまうのですが、基本はブランドマネジャーは営業の管理職に戻していくという考え方です。一方、プロモーショングループは専門職能なので、仕事を覚えるまでにかなり時間がかかります。今、人数ぎりぎりで対応していますが、もう少し人数がいれば、現担当者を1年間フォローした後、担当を替えることは可能です。カードを切り替えるようなものではないので、すぐに交代は無理なのです。私としては、営業所の所長の方が所得も上がるし箔もつくので行かせたいのですが、後任がつけられなくて長く在籍させてしまうのが悩ましいところです。

外注先には地図を積極的に示してもらいたい。

外注先に求めることは何ですか?

基本的には私達に有益な情報を下さるかにかかっています。あとは仕事が正確かどうか、これはもう最低限のお話だと思います。こちらがやりたいことがやれないのであれば外注する意味もありませんので、正確にきちんと一定の品質の中でやっていただけるかどうかがポイントです。コストは決め手の1番最後です。

外注先の皆さんにはどんどんと提案してきて欲しいと思います。自分たちでやれるところはやりますが、私達は家具に関することには精通していても他の企業の常識に疎くなっている可能性がありますから、その場合「それはダメです!」と言ってもらえる方が、私達のことを熱心に考えて下さっているのだと感じます。外注先の皆さんに地図を教えてもらいながら、私達自身が機動力を持って走る。そういうお付き合いをさせて頂きたいと思っています。

お客様を啓蒙できる商品提案を目指す。

今後のWebに望むことはなんでしょうか?

Webでの商品紹介はベースの次元ですから、そこから次の段階へとどんどん進化していく必要があると思います。そのために私達は商品を通してお客様に何を提案したいのかということをしっかりと考え、認識することが大事ですよね。学習机であれば、学習環境や育成環境をつくるというように、子どものために何ができるかということが重要です。 できることなら、商品を提案していくことで、お客様をどんどん啓蒙していけるような発信ができるレベルを目指したいですね。お客様の悩み事を解消したり、快適な生活のためにはどうすればいいか、といったことを提案していきたいです。

プロフィール

山田 郁二氏
カリモク家具株式会社 営業推進部 取締役部長

工業高校のインテリアデザイン科を卒業後、カリモク家具販売株式会社へ入社。 入社当時は在庫管理を担当。その後関西の営業を担当する中、現在の営業推進部の原型となる広告企画と展示企画を対応。90年代後半に立ち上げた業務改革チームへ営業側のメンバーとして参画し、ブランドマネジャー制の導入を推進するとともに営業推進部部長として、マーケティング組織の基盤を固める。 現在は営業推進部のマネジメントのほか、カリモク60のイベント支援やお客様対応、さらに新規立上げが続くショールームの設計も手がけている。

インタビュー後記

山田氏の営業時代のエピソードもおうかがいしました。 当時の営業は、"商品をトラックに積んで卸すまで帰ってくるな"と言われてたそうですが、そんな中、山田氏は店舗運営の「提案書」を書いて店舗の売り場づくりを提案されてたそうです。提案書どおり実際に売り場を整理し、スペースが空くと自社製品を並べさせてもらってたとのこと。単に自社製品を売り込むのではなく、売り場を第一に考えた行動をとられています。 また、48軒もの家具店が並んでいる商店街を担当した際は、家具店の間で過当競争が始まっていたため、総合カタログを切り刻んで勝手に扱い商品の割り当てを行ったそうです。会社としては機会損失になっても、お店のことを考えてとった行動です。 いずれも営業所長からは、内勤時間が長いとか、カタログ情報は全部出すようにといった苦言が飛んでたようですが、店舗からの文句は一切なかったとのことです。 山田氏は常に自問自答してこそ身につく「着眼力」を重視されていますが、すでに営業時代からご自身が「着眼力」を身に付けていたことがうかがえます。そして、そのDNAは営業推進部に着実に引き継がれています。営業を推進するためのしくみづくりに、今後どんな着眼力が発揮されるのか期待が膨らみます。

広富 克子

取締役/執⾏役員

広富 克子

コンテンツマーケティング支援

神⼾⼤学経営学部卒業。住友ビジネスコンサルテイング株式会社⼊社。マーケティングリサーチ・コンサルティング業務を中⼼に活動し、その後AJS(オール⽇本スーパーマーケット協会)にて、プライベートブランドの商品開発・営業に従事。2003年10⽉、株式会社パワー・インタラクティブ⼊社。2006年4⽉、取締役執⾏役員に就任。全社営業戦略を統括する。

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