インタビュー

反響型(SDR)と新規開拓型(BDR)の2つのインサイドセールスチームによる 鉄壁の中継ぎ体制

パワー・インタラクティブでは2015年4月よりMarketoとSalesforceを導入し、マーケティングと営業を連携させるしくみづくりに取り組んでいます。
10月にはインサイドセールス部門を立上げ、Marketoのデータを参考にしながら電話やメールでアプローチをかけ、商談化につなげる動きを強化中です。

そんな中、セールスフォース・ドットコム社の弊社の営業を担当いただいている布留川氏より、Salesforce活用支援の一環として、セールスフォース・ドットコム社がいかにSalesforceを活用してインサイドセールスを展開しているかの弊社向け説明&オフィス見学会をご案内いただきました。
当日は、インサイドセールスの考え方や役割、運用のポイント等、15年間積み上げられてきたノウハウを提供いただき、改めてBtoB営業におけるインサイドセールスの価値を再認識しました。また、弊社なりのインサイドセールスを展開するための多くのヒントを得ることができました。今回は、セールスフォース・ドットコム社のインサイドセールスをベースとした営業のしくみをご紹介します。

・見学日時:2015年12月9日(水)13:00~15:00
・インサイドセールス見学会の対応者
株式会社セールスフォース・ドットコム
セールスディベロップメント SDR マネージャー 杉山 直矢 氏
コマーシャル営業本部 シニアマネ-ジャー 今村 和広 氏
コマーシャル営業本部 アカウントエグゼクティブ 布留川 渚 氏

※関連ナレッジ資料※
Adobe Marketo Engage用イベントプログラム設定チェックシート をダウンロード
B2BマーケティングROI分析ガイド for Salesforce × Account Engagement をダウンロード

インサイドセールスの役割は、マーケティングと営業の「中継ぎ投手」

セールスフォース・ドットコム社では、全社的にインサイドセールスが最も重要な位置づけにあるという認識の元、営業活動が行われています。インサイドセールス部門(SDR)マネージャーの杉山氏は、「営業にはクロージングのみやってほしいが、やることが多いのが現状。営業が重要であるとわかっていても手がつかない仕事、苦手に思っていたり避けたいと思っている仕事に徹底フォーカスし、専任で対応することにインサイドセールスの価値がある。」と強調します。

インサイドセールスの役割は、野球の中継ぎ投手と同様に捉えられています。現在プロ野球の「先発完投型」試合の割合は1割を切っており、勝利に向けて先発→中継ぎ→抑えの分業化が定着しています。営業活動も同様、受注を促進するには完投型から分業型の営業へ、その中でも中継ぎを務めるインサイドセールスが重要であることを認識しました。

インサイドセールスと外勤営業が連携した営業組織体制

セールスフォース・ドットコム日本法人の現在の社員数は約800名。そのうち営業は約400名、インサイドセールスは65名という人員体制です。10年前は営業15名、インサイドセールス2名と、ここ10年で営業とともにインサイドセールス人員も増大しています。

セールスフォース・ドットコム社のインサイドセールスは2つのチームに分かれます。お客様からのお問い合わせに対応する反響型のSDR(Sales Development Representive)と、新規獲得型のBDR(Business Development Representive)です。(表1参照)

担当する外勤営業部門のセグメントとも紐づいており、大手企業には新規開拓型のBDR、企業数が多い中堅・中小企業には反響型のSDRが対応しています。(図1参照)

SDRから外勤営業に商談を引き渡す際は、特に指名をするわけではありませんが、BDRは最初から一緒に取組む外勤営業が決まっています。外勤営業3人にBDRが1人つくかたちで、アプローチ先から設定を一緒に行っていきます。大手企業が多いので、1回目の訪問で終わることはなく、2回目、3回目の訪問でどのように話を進めていくか、アカウントプランを一緒に作っています。

図2は、100~499名の中堅企業セグメントの担当付けです。都内に8000社がいると想定して、以下のようなランク付けを行い対応しています。B(Tier2)は狙いたい企業として外勤営業にBDRがつきます。このセグメントは常に20~30社入れ替えて戦略的に対応しています。また、D(Tier4)はアプローチ対象外としてインバウンドできた企業は中小企業と同様SDRが対応します。

セールスフォース・ドットコム社のキャリアプランは、SDR→BDR→外勤営業→マネージャーと、SDRが登竜門となり外勤営業へ育成する流れとなっています。6ヶ月間の累計でSDRより上位3~4名を選出し、BDRのマネージャーと面接、月1~2名がBDRに進めます。BDRから外勤営業に昇格する際も同様の流れであり、明確なステップが敷かれています。

Salesforceの機能を活かした人的運用体制が営業成果を導く

セールスフォース・ドットコム社では、Salesforceの機能を効果的に活かした運用体制が構築されています。Salesforceを導入しただけで営業成果が上がるものではなく、システムを使いこなしながらいかに営業成果を上げる運用体制を固めていくか、自ら実践していました。

1)「活動履歴」は電話がつながらなくても必ず全て残す

インサイドセールスが電話をかけてすぐに相手につながるケースは多くはありません。セールスフォース・ドットコム社では、電話がつながらない場合も必ず「活動履歴」に残すようルールが徹底されています。メールも全てSalesforceから送って活動履歴として紐付けられます。一連の行動は、リードの詳細画面の「説明欄」に不在対応も含めた活動履歴を全て入力して一覧で見えるようしています。
また、インサイドセールス活動では、人の感覚で簡単にあきらめないために「留守電とメールで10回アクション」、電話をかけすぎないようメールとのバランスをとる「3電話1メール」、といった運用ルールが作られており、こうした運用を回していく上でもSalesforceに活動履歴を残すことが大前提となっています。

②「アプローチ先リスト」をインサイドセールス自らが作成する
アプローチ先は、インサイドセールス自らが空いている時間を使って考え、リストを作成しておくことが重要視されています。
リード情報は全てSalesforceに入っているので、インサイドセールス自らがアプローチ先を選定し、「レポート」画面に各自のアプローチ先リストが作られています。

③「ダッシュボード」で商談全体の結果とプロセスを分析する
インサイドセールスは、1件1件のリードの動きだけでなく、商談全体の動きを確認し、自分の立ち位置、抜け漏れを確認することが求められます。マネージャーが商談結果とプロセスを検証するために見ている「ダッシュボード」をインサイドセールスも確認することで、自らをマネジメントします。また、外勤営業の商談もチェックして、自分が渡した商談のその後の動きを学んでいます。

2)失注商談はインサイドセールスが100%フォロー

ここまではインサイドセールスの基本的活動とSalesforceの活用の仕方をご紹介しましたが、セールスフォース・ドットコム社ならではのノウハウとして見逃せないのが、失注商談を"定期的に行うしくみ"です。
失注商談は、外勤営業が「失注」をSalesforceに記録したと同時にTO DOが自動的に設定され、タスクがふられます。インサイドセールスは外勤営業が残した過去の商談履歴を確認しながらタイミングを図ってアプローチします。外勤営業が商談メモを残しているからこそ実現できる、運用とシステムが融合したリサイクルのしくみです。
2015年2月~12月の失注商談の再商談化は数百件、そこから受注につながる件数は少なくなく、数字からも失注商談掘り起しのしくみが重要であると認識されています。

3)大手ターゲット企業のトップへは「手紙」で接点を切り開く

インサイドセールスのアウトバウンド活動も多くのノウハウが蓄積されています。アウトバウンド活動は、BDR(Business Development Representive)によって戦略的に展開されます。
まず、期初の会議でランク付け(Tier付け)が決まり、その後は微調整をとりながらアプローチが進められます。セグメントによって対象とする企業数は異なり、MM(中堅企業)であれば5~10社をターゲットに選定し、年間のアカウントプランがセットで決められます。選定した企業に対しては、人事情報や会社戦略、業界情報の収集が始まります。
アプローチ手段には「手紙」が使用され、接点のとりにくい大手企業の社長へ向けたアプローチが展開されます。

【手紙によるアプローチポイント】

①開封率を上げる方法として封筒を和紙にして目に留まるようにする。

②手紙の中身は、

・なぜこのタイミングで手紙を送ったのかのつかみを書く
・中盤はその企業に近い規模感や業種で定量効果が出ている公開事例を記載し、役に立てるポイントを伝える。
・最後の一文は、連絡する日付を記載する

最後の一文に連絡する日付を記載する効果は2点あります。1つはインサイドセールスにとって、連絡することがTODOとなり先延ばしできなくなる点、もう1つは社長経由でマネージャー層に話を回してくれる動きが出て、保守的なマネージャーへのアプローチが可能になる点です。社長経由で営業部長へ話を聞くように指示が回るケースもあったようです。

手紙でのアプローチによるアポ獲得率は約20%、取材前月は1100通以上送付しています。

数値やルールに基づいたインサイドセールス活動の標準化

1)インサイドセールスのノウハウは事前準備から確立

インサイドセールスでは、電話をかける前の準備段階からノウハウが蓄積されています。新規リードに電話をかける準備は15分までとされ、以下の事前確認が行われます。

【事前確認】

・Webサイトで会社情報や社長のことば、ビジョン等を確認する
・Facebook等のSocial情報で関心分野や社内の接点を確認する
・社内接点が見つかれば、Salesfoaceの「Chatter(チャター)」機能で人脈をたどって紹介してもらえるか確認する
・「キャンペーン」情報より、Webサイトのどんな導線をふんできているかを確認する

電話をかける段階では、中堅中小企業の経営者や営業系、システム系の方に電話をする機会が多いことをふまえヒアリング項目がまとめられています。顧客情報はすでに取得しているものが多いので、電話ではご要望を中心にヒアリング、特にオープンクエスチョンを中心に聞くようトレーニングされています。

【ヒアリングポイント】

・なぜWebを見たのか検討の背景や、実現したいことを聞く。
・また、それがなぜ実現できていないのか、問題や障害を浮き彫りにする。
・仮に導入した場合のスケジュール感を持っているのかを確認する。
・金額はあえてぶつけてその反応を重視する。

商談化した案件をインサイドセールスから営業へ渡す際は、商談メモだけ記載する「ピッチメモ投稿グループ」を作り、「Chatter(チャター)」を通じて情報共有されます。「ピッチメモ投稿グループ」のメンバーは、インサイドセールスに外勤営業のマネージャーと内勤営業のマネージャーが加わり、今どんな商談が外勤営業に渡っているのかを把握できるようにしています。
また、インサイドセールス側も「ピッチメモ投稿グループ」を見て、他のインサイドセールスがどんな商談を外勤営業に投げているのかを把握できます。特に入社1~2ヶ月目のインサイドセールスには、仕事を理解するためにも「ピッチメモ投稿グループ」を見ておくよう指示が出されています。

2)SDRの1日の活動量は40コール、15コネクト

SDRの成果は活動量があってこそ、1日の活動量の目安は40コール、15コネクトとされています。

また、SDRの活動は、質の高さとスピードが重要視され、ルールにも反映されています。 お客様への対応準備は15分以内。また、休みをとるなどして担当付けされたお客様への電話が24時間以内にできなければ、サバイバルルールにより他のSDRに回されてしまいます。
お客様が自社の資料をダウンロードする場合は他社のツールも見ていることが想定され、連絡が1番目になるか2番目になるかでお客様に与える印象は大きく違ってくるようです。 お客様からは「セールス・フォース社からの電話が最も早かった。」とよく言われるそうです。
外勤営業への引き渡しもルール化されています。お客様との商談メモは15分以内に外勤営業に送ること、メモを出したら直接口頭で外勤営業と会話をする。メモだけでは伝えきれない情報があり、所感や人物像は直接インサイドセールスから外勤営業に伝えます。敢えてマーケティングオートメーションには頼らず、事実情報と人の感覚が重視されます。スコアリングは一つの指標として見るものの自動的に商談抽出する動きはとられていません。

シンプルかつ明瞭なKPI

DRの月間KPIは、「有効会話件数」「商談件数」「商談金額」「契約金額」の4つの指標で構成されています。

【KPIと月間目標】

有効会話件数     約300件
商談件数        20~30件
成約件数        4~5件

特に重要視されるのが「商談件数」ですが、最近は量だけでなく質とのバランスを見る目的で金額も指標に置かれています。

インサイドセールスのマネジメントも、月間商談件数20~30件を達成するための意識付けが行われています。目標に対する意識付けは外勤営業のマネジメントと同様です。外勤営業と違うのは、インサイドセールスは第2新卒の比較的年齢の若いメンバーが多いので、コミュニケーション能力をつけることに加え、お客様の各業種の特徴やプロセスをいかに学ぶかという点です。現在は部門に1名専任のトレーナーがつき、1ヶ月目はルールブックの徹底やヒアリングの研修を行い体系的に学べるようになっています。

部門間ミーティングは、中堅・中小企業の営業マネージャーとマーケティング、インサイドセールスで週1回、1時間程度実施されます。
資料作成に時間を使うことなくSalesforceの「ダッシュボード」を見ながら、セグメントに対してインサイドセールスからバランスよく商談件数・金額が供給できているか、リード数が少ない場合は別の施策を走らせるために何をするか、といった検討が行われます。会議には負荷をかけず、あとは「Chatter(チャター)」グループで情報共有を行う運用です。
Salesforceを活用して効率的に情報共有を行い要所要所で顔を合わせる、システムと人的コミュニケーションのバランスのとれたPDCA運用が展開されています。

パワー・インタラクティブでの活かし方

今回の見学会を通じて、パワー・インタラクティブのインサイドセールスに優先的に取り込んでいきたいと考えたのは以下の3点です。

1)Salesforceに活動履歴を残すことを徹底する

今さらながら、活動履歴を残さなければ、担当者もマネジャーも検証を行い次のアクションに移すことができないことを痛感しました。ルールを作ることはもちろん、いかにルールを徹底させるかが乗り越えなければならない最初のハードルです。
活動履歴を残すことが徹底されれば、失注リストの掘り起しも可能になるでしょう。

2)「ご要望」を聞き出すためのヒアリング項目を固める

インサイドセールスの活動で最も思案してたのが、何を理由に、どんな切り口で電話をかけるかということです。単にサービスを紹介したりアポイントをとるだけでは相手に引かれるだけで何の情報も収集できません。見込み客がアクションを起こすのは何らかの理由があってこそ、そのタイミングに応じて「なぜ、そのアクションに至ったのか」「何に困っているのか」「何を求めているのか」を聞き出せば、見込み客の課題や現状が見えてくることに改めて気づきました。資料ダウンロード、セミナー申込み、サービスページの閲覧、メールのクリック等それぞれのアクションに応じた要望の聞き出し方について、弊社なりのヒアリングパターンと項目が固めていけそうです。

3)ターゲットとして狙いたい接点のない企業のリストアップとアプローチ

インサイドセールスはインバウンド対応のみ想定していましたが、アウトバウンドの動きも有効であることに気づきました。現在はリードの中からいかに有望リードを抽出するかに重点を置いていますが、ターゲット企業をリストアップしてアプローチをしかける動きも並行して取り組みたいと思います。セールスフォース・ドットコム社の「手紙」によるアプローチは大変参考になりました。

インタビュー後記

今回の見学会では、Salesforceというシステムの活かし方だけでなく、インサイドセールスの効果的運用のヒントを得ることができました。営業400名のセールスフォース・ドットコム社に対し、パワー・インタラクティブは専任営業ゼロの体制です。弊社の場合、セールスフォース・ドットコム社のSDRの役割の多くは、マーケティングオートメーションを活用したリードナーチャリング施策が担います。そして弊社のインサイドセールスの役割は、マーケティングオートメーションから営業への中継ぎ、つまりシステムから人への中継ぎです。

マーケティングオートメーションで見込み客のタイミングをはかりながら、インサイドセールスによって、"なぜ"その行動に至っているのかを付加して営業に渡す。データだけでは読み取れない見込み客情報を付加してこそ、インサイドセールスの価値があります。

弊社なりの最適な営業プロセスの成功へのカギを握るのは、まさにインサイドセールスであると言えます。

(パワー・インタラクティブ 広富)

インサイドセールス関連セミナーレポート

1部 営業専任ゼロで新規商談を創出する「インサイドセールス × マーケティングオートメーション(MA)」の活用法

2部 マルケト社に学ぶ「インサイドセールス組織の作り方」

3部 セミナーレポート「"インサイドセールス×マーケティングオートメーション"だからできること(対談)」

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