コラム

営業とマーケが分断する本当の理由は、「リードの質」ではない

遠藤 美加
株式会社パワー・インタラクティブ 取締役/常務執行役員

営業とマーケティングの連携は、長年、多くのBtoB企業で課題と言われてきました。

マーケティング部門は、「リードは渡しているのに、営業が追ってくれない」と感じる。
一方で営業部門は、「渡されるリードの質が低く、商談につながらない」と感じる。

このようなすれ違いは、決して珍しいものではありません。

しかし、この問題を「営業とマーケティングの連携不足」とだけ捉えてしまうと、本質を見誤ります。もちろん、部門間のコミュニケーションや引き渡しルールは重要です。けれども、商談創出がうまく進まない原因は、それ以前のところにあることが少なくありません。

本質的な問題は、営業とマーケティングの間で、誰を狙うのか、何を価値として届けるのか、どの状態を商談化とみなすのかが揃っていないことです。

つまり、営業とマーケティングの分断は、単なる部門間連携の問題ではありません。
顧客理解と判断基準のズレによって、商談創出のプロセス全体がつながらなくなっている状態なのです。

営業とマーケは、同じ顧客を見ているようで違うものを見ている

営業とマーケティングのすれ違いは、なぜ起きるのでしょうか。

多くの場合、原因は「見ている指標」と「判断している時間軸」の違いにあります。

マーケティング部門は、問い合わせ数、資料ダウンロード数、ウェビナー申込数、メール開封率、MQL数などを見て成果を判断します。これらはマーケティング活動を評価するうえで、当然重要な指標です。

一方で営業部門が見ているのは、そのリードが実際に商談化するかどうかです。
予算はあるのか。導入時期は近いのか。決裁者に届くのか。自社のサービスで解決できる課題を持っているのか。競合と比較されたときに勝てる可能性はあるのか。

マーケティングは「反応があった顧客」を見ています。
営業は「商談として進む顧客」を見ています。

どちらかが間違っているわけではありません。
しかし、この2つの見方が接続されていないと、マーケティングは「成果が出ている」と感じ、営業は「商談につながっていない」と感じます。

たとえば、マーケティング部門が多くのリードを獲得していても、その多くが営業の優先ターゲットとずれていれば、営業は積極的に追いません。逆に、営業が求める顧客像がマーケティング側に共有されていなければ、マーケティングは本当に営業が動きやすい顧客を増やすことができません。

ここで問題なのは、単にリード数が多いか少ないかではありません。

問題は、マーケティング活動が、営業が判断できる状態まで顧客理解を深められているかどうかです。

「リードの質が悪い」は、問題の表面にすぎない

営業から「リードの質が悪い」という声が出ることがあります。

この言葉は一見わかりやすいのですが、実は非常に曖昧です。
なぜなら、「質が悪い」という一言の中には、複数の問題が混ざっているからです。

たとえば、営業が「質が悪い」と感じるリードには、次のような状態が含まれています。

・ターゲット企業ではない。
・課題がまだ顕在化していない。
・予算や導入時期が合っていない。
・窓口担当者との接点しかない。
・決裁者や関与者が見えていない。
・自社の提供価値と顧客課題が合っていない。
・営業が次に何を話せばよいかわからない。

これらはすべて「リードの質」という言葉で片づけられがちです。

しかし、実際にはそれぞれ原因も打ち手も異なります。
ターゲット設計の問題なのか。訴求設計の問題なのか。ナーチャリングの問題なのか。営業への引き渡し情報の問題なのか。購買グループが見えていない問題なのか。

ここを分解しないまま、「リードの質を上げよう」と考えても、改善策は曖昧になります。

本当に見るべきなのは、営業がどの判断で止まっているのかです。

・この顧客は追うべきなのか。
・今アプローチすべきなのか。
・誰に接触すべきなのか。
・何を切り口に話すべきなのか。
・商談化の可能性はどこにあるのか。

営業がこうした判断をできない状態でリードだけが渡されても、商談創出は前に進みません。

MQL定義の前に、ICPと提供価値を揃える

営業とマーケティングの連携強化というと、SLAやMQL定義、SQL定義、営業引き渡しルールの整備から始める企業は少なくありません。

・何点以上のスコアになったら営業へ渡すのか。
・問い合わせ後、何時間以内に営業がフォローするのか。
・どのステータスになったら商談化とするのか。
・営業が対応した結果をどのように戻すのか。

もちろん、これらのルールは重要です。
しかし、ルールを整える前に確認すべきことがあります。

それは、営業とマーケティングで「良い顧客」の定義が揃っているかどうかです。

・自社が最も価値を提供できる顧客は誰なのか。
・どの業界、どの企業規模、どの部門、どの役職者を優先すべきなのか。
・顧客がどのような課題を持っているときに、自社の提案は刺さりやすいのか。
・どのタイミングの顧客を商談化対象とするのか。
・営業が追うべきシグナルは何か。
・マーケティングが育成すべき状態は何か。

これらが揃っていなければ、MQLやSQLの定義を整えても、営業とマーケティングのすれ違いは解消されません。

たとえば、マーケティングは「資料をダウンロードした人」を有望リードと見なしていても、営業は「対象業界かつ課題が明確で、部門責任者以上が関与している企業」を優先したいと考えているかもしれません。

の場合、スコアリングのルールを細かくしても、根本的なズレは残ります。

先に揃えるべきなのは、スコアではなく顧客像です。
営業とマーケティングが、同じ顧客像と同じ提供価値を見ている状態をつくることが、商談創出の土台になります。

営業に必要なのは、リード情報ではなく「次に話す理由」である

マーケティングの役割は、リードを営業に渡すことだけではありません。

営業が次の会話を始められるように、顧客の関心、課題、検討状況を文脈として渡すことが重要です。

営業が本当に必要としているのは、単なるリード情報ではありません。
会社名、氏名、メールアドレス、ダウンロード資料名だけでは、営業は有効な会話を始めにくいものです。

必要なのは、「なぜこの顧客はいま関心を持っているのか」「どの課題に反応しているのか」「社内でどのような検討段階にありそうか」という文脈です。

たとえば、次のような情報があるだけで、営業の動き方は変わります。

・どのテーマの資料を複数見ているのか。
・どのセミナーに参加したのか。
・どのページを再訪しているのか。
・過去の商談や失注理由は何か。
・同じ企業内で複数人の反応があるか。
・営業接点でどのような課題が語られているか。

こうした情報がつながることで、営業は「誰に、何を、どの順番で話すべきか」を判断できます。

逆に、情報が点のまま渡されると、営業は一から顧客理解をやり直さなければなりません。
結果として、優先順位が下がったり、初回接触の質が低くなったり、顧客の関心とずれた会話になったりします。

リードを渡すこと自体が目的ではありません。
営業判断を前に進める情報に変換して渡すことが重要です。

営業現場の一次情報こそ、次のマーケティング施策の材料である

営業とマーケティングをつなぐには、マーケティングから営業への一方通行では不十分です。

営業現場で得られた一次情報を、マーケティングに戻す循環が必要です。

営業は、顧客の本音に最も近い場所にいます。

・なぜ検討が進まないのか。
・なぜ競合と比較されているのか。
・上申時にどの情報が不足しているのか。
・どの言葉に反応し、どの説明で納得するのか。
・どの部門・役職者が慎重なのか。
・社内で誰が推進者になり、誰が反対しているのか。

こうした情報は、広告管理画面やMAのスコアだけでは見えません。

しかし、多くの企業では、営業が得た情報が商談メモや個人の経験に閉じています。
その結果、マーケティングは同じような資料やセミナーを作り続け、営業は同じ説明を個別に繰り返すことになります。

営業の声をマーケティングに戻すことができれば、施策改善の精度は大きく変わります。

・よくある反論をコンテンツ化する。
・上申用の資料を整備する。
・業界別・課題別の訴求を磨く。
・失注理由を次のナーチャリングテーマにする。
・商談化しやすい企業属性を見直す。
・既存顧客の成功パターンを新規施策に活かす。

これらはすべて、営業現場の情報がマーケティングに戻ってこなければ実現できません。

営業とマーケティングの連携とは、単に会議体を増やすことではありません。
営業が得た顧客理解をマーケティング施策に反映し、マーケティングが得た行動データを営業活動に活かす循環をつくることです。

部門連携を見るのではなく、止まっている判断を見る

営業とマーケティングの連携を改善しようとするとき、部長・本部長以上の責任者が見るべきなのは、個別施策の良し悪しだけではありません。

見るべきなのは、営業とマーケティングの間で、どの判断が止まっているのかです。

まず確認すべきは、狙う顧客が揃っているかです。

営業とマーケティングで、優先すべき業種、企業規模、課題、部門、役職が一致しているでしょうか。マーケティングが獲得しているリードは、営業が本当に増やしたい顧客群と合っているでしょうか。

次に確認すべきは、商談化の条件が揃っているかです。

・どの状態になれば営業が追うべきなのか。
・単なる資料ダウンロードなのか。
・複数接点があることなのか。
・特定テーマへの反応なのか。
・企業内の複数人が関与していることなのか。

この条件が曖昧なままでは、マーケティングはリードを渡し、営業は追うべきか迷う状態が続きます。

最後に確認すべきは、営業の学びがマーケティングに戻っているかです。

商談で得た顧客課題、反論、失注理由、決裁者の関心ごとは、次のコンテンツ、セミナー、メール、広告、Web改善に反映されているでしょうか。

営業とマーケティングの分断は、「仲が悪い」「会議が少ない」といった表面的な問題として現れます。
しかし、本当に見るべきなのは、その間で止まっている判断です。

・誰を狙うか。
・いつ営業が動くか。
・何を話すか。
・どの情報を次の施策に戻すか。

この判断がつながらない限り、商談創出の仕組みは強くなりません。

まとめ:営業とマーケをつなぐとは、顧客理解と判断基準を揃えること

営業とマーケティングの分断は、「連携不足」という一言で片づけられがちです。

しかし、本当に見るべきなのは、営業とマーケティングの間でどの判断がずれているのかです。

・誰を狙うのか。
・何を価値として届けるのか。
・どの状態を商談化とみなすのか。
・営業は何を根拠に次のアクションを判断するのか。
・営業現場の学びは、次のマーケティング施策に戻っているのか。

これらが揃っていないままリード数を増やしても、商談創出は安定しません。

営業とマーケティングをつなぐとは、単に会議を増やすことでも、SFAやMAを連携することでもありません。
顧客理解と判断基準を揃え、顧客の購買プロセスを前に進める仕組みをつくることです。

・リードの数ではなく、営業が動ける理由をつくる。
・部門ごとのKPIではなく、商談創出に向けた判断基準を揃える。
・営業現場の一次情報を、次のマーケティング施策に戻す。

この循環ができて初めて、営業とマーケティングは分断された活動ではなく、商談創出を前に進める一つの仕組みとして機能します。

営業とマーケティングの連携を強化したいと考えたとき、まず見るべきなのはツールや施策ではありません。

自社では、狙う顧客、商談化の条件、営業が動くための情報、営業現場から戻る学びがどこで分断しているのか。
一度、現在地を整理してみてはいかがでしょうか。

パワー・インタラクティブでは、営業・マーケティング・データの現状を可視化し、商談創出を阻むボトルネックと改善優先順位を整理する支援を行っています。
まずは、自社の商談創出プロセスの現在地を確認することから始めてみませんか。

遠藤 美加

取締役/常務執⾏役員

遠藤 美加

マーケティング戦略策定

関⻄学院⼤学経済学部卒業。住友ビジネスコンサルティング株式会社⼊社。マーケティング分野のリサーチおよびコンサルティング業務を経て、⽴命館⼤学(学校法⼈)に転じ、⼤学の⻑期経営計画づくりや産学連携事業を担当。その後、⼤阪市のソフト産業プラザにてベンチャーコーディネーター業務に従事。2000年4⽉、パワー・インタラクティブ⼊社。同年6⽉取締役、2003年常務執⾏役員に就任。全社の事業戦略を統括する。

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