変化の中でも成果を出し続けるマーケティング運用の設計

MOps(Marketing Operations)が注目される背景には、マーケティング活動を属人的な運用から脱却させ、組織として安定的に成果を出せる状態をつくりたいという課題意識があります。

担当者が変わっても、施策の質を落としたくない。
特定のエースに依存せず、継続的に運用できる体制を築きたい。
施策、データ、ツール、部門連携を整えながら、より精度の高い意思決定と実行を行いたい。

こうした文脈で、MOpsとあわせて語られることが多いのが「再現性」です。

ただし、この再現性という言葉は、しばしば「手順の標準化」や「運用の統一」といった意味で理解されがちです。もちろん、それらは重要です。しかし、MOpsの文脈で本当に問われる再現性は、もう少し深いところにあります。

再現が難しいのは、作業ではなく判断である

マーケティング運用の現場では、一見するとオペレーションに見える業務の中に、数多くの判断が埋め込まれています。

たとえば、どのリードを優先すべきか。
どのスコアを重く見るべきか。
営業に引き渡す基準をどこに置くか。
KPIの変動をどこから異常とみなし、どのタイミングで改善に着手するか。
例外案件をどこまで現場で処理し、どこから上位判断に上げるか。

これらは単なる作業ではありません。
毎回少しずつ異なる条件の中で、状況を解釈し、優先順位をつけ、関係者と調整しながら進める判断です。

そのため、MOpsにおいて属人化しやすいのは、作業手順そのものというよりも、判断とその運用への落とし込み部分です。

属人化の本質は、知識の偏在ではなく「変換」の未設計にある

現場ではしばしば、「あの人がいないと配信設計が決まらない」「あの人しかスコアリングを見直せない」「あの人しか営業との調整ができない」といった状況が起こります。

こうした状態は、一見すると知識やノウハウが特定個人に集中しているように見えます。
しかし実際には、多くの場合、依存されているのは知識そのものではありません。

本当に依存されているのは、方針やルールを、実際に回る運用へと変換する力です。

たとえば、

・事業の優先方針をスコアリング条件に落とし込む
・営業とマーケティングの役割分担をリード運用ルールに翻訳する
・複数部門の異なるKPIを現場で回る指標設計に接続する
・ツール仕様やデータ制約を踏まえて現実的な運用フローを設計する

こうした営みは、単なる知識の保有ではなく、原理を実装につなぐ「変換」です。

そして、この変換が仕組みとして設計されていないと、熟達した個人がその空白を都度埋めることになります。
これが、マーケティング運用における属人化の正体です。

MOpsにおける再現性とは、「判断と責任の構造」を再現可能にすること

このように考えると、MOpsにおける再現性とは、単に同じ手順を誰でも実行できる状態ではありません。

本質的には、
何を見て、どう判断し、どう調整し、誰がどこまで責任を持つのかまで含めて、別の人でも同じ質で運用できる状態をつくること
が、MOpsにおける再現性だと言えます。

つまり再現性とは、作業の複製ではなく、判断構造の設計です。

この視点に立つと、「手順書を増やす」「ナレッジを集める」といった施策だけでは不十分である理由も見えてきます。
情報が整備されていても、最終的に「あの人に聞かないと決められない」状態が残るのであれば、それは知識不足ではなく、判断構造が再現可能になっていないということです。

では、MOpsにおいて再現性を確立することは可能なのか

結論から言えば、可能です
ただし、それは「誰がやってもまったく同じ結果になる状態」を意味しません。

マーケティングを取り巻く環境は常に変化しています。 市場も顧客も変わり、営業との連携状況も変わり、社内の優先順位やツール環境も変わります。こうした状況の中で、固定化された運用だけで対応し続けるのは現実的ではありません。

したがって、MOpsにおける再現性とは、同一のやり方を機械的に繰り返すことではなく、状況が変わっても、担当者が変わっても、一定の質で判断と実行を繰り返せる状態をつくることと捉えるべきです。

この意味での再現性であれば、MOpsにおいて十分に確立可能です。
むしろ、それこそがMOpsの中核的な役割のひとつだと言ってよいでしょう。

再現性あるMOpsに必要なのは、判断を組織の仕組みに変えることである

では、そのために必要なことは何でしょうか。

重要なのは、優秀な担当者の経験や勘をそのまま移すことではありません。
必要なのは、優秀な担当者が日々行っている判断と変換を、組織としてたどれる形に置き換えることです。

具体的には、たとえば次のような設計が求められます。

・どの指標を優先して判断するかという基準の明確化
・標準運用と例外運用の境界整理
・営業、マーケ、インサイドセールスの責任分担の明確化
・リード定義やスコアリングを見直す条件の整備
・判断に必要な一次情報へのアクセス設計
・例外発生時のエスカレーション条件の明文化
・現場で起きた例外をルールへ反映する更新ループの構築

こうした仕組みが整ってはじめて、担当者が変わっても運用の質が大きくぶれにくい状態が実現します。

言い換えれば、再現性とは変化をなくすことではありません。
変化の中でも、ぶれずに運用できる構造を持つことです。

AI時代のMOpsは、より一層「判断設計」の役割を担う

今後、レポート作成、情報整理、設定作業、分析補助といった領域では、AIによる支援や自動化がさらに進んでいくと考えられます。

そうなると、MOpsの役割は単なる運用代行や実務処理ではなくなります。
これから問われるのは、

・何を自動化するのか
・何を標準化するのか
・何を人の判断として残すのか
・その判断をどう個人依存ではなく組織の仕組みに変えるのか

を設計することです。

つまり、AI時代のMOpsに求められるのは、オペレーションを回すこと以上に、判断と責任の構造を設計し続けることだと言えます。

MOpsの成熟は、判断と責任まで含めて再現可能にできているかで決まる

MOpsの成熟は、ツールを使いこなせることだけでは測れません。
施策を大量に回せることだけでも十分ではありません。

本当に重要なのは、属人的な工夫や個人の力量に過度に依存しなくても、組織として一定の質でマーケティングを動かせることです。
そのために、作業手順だけでなく、判断と責任の構造まで含めて設計できているかどうか。
そこにこそ、MOpsの成熟度が表れるのではないでしょうか。

MOpsにおける再現性とは、作業をそろえることではありません。
判断を組織の構造に変えること
そして、その構造を変化に応じて更新し続けること。
それこそが、これからのマーケティング組織に求められるMOpsの本質だと考えます。

パワー・インタラクティブでは、MOpsの設計・運用支援を通じて、ツール活用だけでなく、判断基準や連携ルール、Playbook整備まで含めた仕組みづくりをご支援しています。
「運用が特定の担当者に依存している」「Playbookを作りたいが何を整理すべきか分からない」といった課題があれば、ぜひお問い合わせください。

遠藤 美加

取締役/常務執⾏役員

遠藤 美加

マーケティング戦略策定

関⻄学院⼤学経済学部卒業。住友ビジネスコンサルティング株式会社⼊社。マーケティング分野のリサーチおよびコンサルティング業務を経て、⽴命館⼤学(学校法⼈)に転じ、⼤学の⻑期経営計画づくりや産学連携事業を担当。その後、⼤阪市のソフト産業プラザにてベンチャーコーディネーター業務に従事。2000年4⽉、パワー・インタラクティブ⼊社。同年6⽉取締役、2003年常務執⾏役員に就任。全社の事業戦略を統括する。

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