「MA連携の壁」を越える!マーケティングデータで始める製薬収益管理の第一歩
理想の連携は遠くても、収益管理は「今」からできる
製薬マーケティングマネージャーの皆様、前回の記事では、マーケティングオートメーション(以下、MA)の真の価値が「収益管理」にあり、Sales Force Automation(以下、SFA)/Customer Relationship Management(以下、CRM)とのシームレスな連携が理想であることをお伝えしました。
しかし、多くの現場で「システム連携の壁」が立ちはだかることを、経験しています。
◆前回の記事
製薬マーケティングの未来を拓くMA戦略:収益最大化とデジタル変革への道筋
MAは単なるパーソナライズされたメール配信ツールではありません。その真の価値は、マーケティング活動全体の「収益管理」にあります。MAの登場により、これまで・・・・・・・・ 続きはこちら
「データが部門ごとにバラバラに管理されている(データサイロ化)」
「システム連携の予算や工数が確保できない」
「現場のITリテラシーにばらつきがある」
こうした課題を前に、「収益管理なんて、うちの会社では無理なのでは…」と、諦めかけていませんか?
たとえMAとSFA/CRMの「完璧な」連携がすぐに実現できなくても、収益管理を諦める必要は全くありません。実は、マーケティング部門がすでに持っている、あるいは比較的容易に集約できる「マーケティング領域のデータ」だけでも、収益管理への大きな一歩を踏み出すことが可能なのです。
この記事では、理想の連携が難しい状況でも、マーケティング部門が自らの手でデータドリブンな収益管理を始めるための、具体的なステップと実践的なヒントをご紹介します。
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なぜ「マーケティングデータだけ」から始めるのか?
全社的なシステム連携が困難な状況で、なぜあえて「マーケティングデータだけ」に焦点を当てるべきなのでしょうか。そこには、現場のマーケティングマネージャーにとって大きなメリットがあります。
1.現場のコントロール範囲で「クイックウィン」を狙える
SFA/CRMとの連携は、他部門やIT部門との調整、大規模なシステム改修が必要になることが多く、時間もコストもかかります。
しかし、マーケティング部門が直接管理・収集できるデータ(MAツール内のデータ、ウェブサイトのアクセスログ、メール配信データなど)に焦点を当てれば、自部門の裁量で迅速にデータ集約と分析を進めることができます。これにより、短期間で具体的な成果を出し、「データ活用の成功体験」を社内に示すことが可能になります。
2.データドリブン文化醸成の「足がかり」となる
「ツールを使いこなせる人材が不足している」「現場の巻き込みがうまくいっていない」といった課題は、製薬業界のデジタル&データ活用における共通のボトルネックです。まずはマーケティング部門内でデータを集約・活用する成功事例を作ることで、部門内のデータリテラシーを高め、データドリブンな意思決定の文化を育むことができます。この小さな成功が、やがて他部門を巻き込む大きな変革の原動力となるでしょう。
3.将来の「本格連携」への布石となる
マーケティングデータだけでも収益管理の視点を取り入れ、効果を可視化できれば、それはSFA/CRMとの本格的な連携を進めるための強力な根拠となります。データ活用の重要性を具体的な成果で示すことで、経営層やIT部門からの理解と協力を得やすくなり、将来的なシステム投資や組織改編への道を開くことができます。
マーケティングデータを「収益管理の武器」に変える実践ステップ
それでは、具体的にマーケティング領域のデータだけを使って、どのように収益管理を進めていけば良いのでしょうか。
ステップ1:マーケティングデータの「見える化」と集約
まずは、マーケティング活動によって得られるデータを一箇所に集め、「見える化」することから始めます。
・どんなデータを集めるか?
マーケティング部門が日常的に接している医師の行動データが中心となります。
-ウェブサイトの行動履歴
どの医師が、いつ、どのページを何回見たか。特に製品情報ページや疾患啓発コンテンツ、Web講演会告知ページ、資材ページなどの閲覧履歴は重要です。
-メールのエンゲージメントデータ
配信したメールの開封率、クリック率、どのリンクがクリックされたか。
-コンテンツダウンロード履歴
ホワイトペーパー、資料、論文などのダウンロード履歴。
-Web講演会出席・視聴履歴
ライブ参加、オンデマンド視聴の有無、視聴時間など。
合わせてアンケートも実施するとより課題を明確化できます。
-3rdPatyなどの広告キャンペーンの反応
3rdPatyなどからの流入、クリック、サイト内コンバージョンなど。
-製品毎に取得したスコア情報
製品に対する興味を図るために設定したスコアリングデータなど。
これらのデータは、MAツールに集約されていることが多いですが、もしMAツールが導入されていない、あるいは十分に活用できていない場合は、Web解析ツール(Google Analyticsなど)、メール配信システムのレポート、Web講演会プラットフォームのデータなどを活用し、CSVなどで出力して集約することを検討しましょう 。
・どうやって集約・整理するか?
MAツールが導入されていれば、そのレポート機能や顧客管理機能が主要な集約場所となります。MAツールは、見込み顧客(リード)管理、スコアリング、メール配信、レポート機能などを持ち、マーケティング活動のデータを一元的に扱うことができます。
もし自社にデータ ウェアハウス(DWH)などがあれば、集積することも検討ください。
もしMAツールが未導入、あるいは機能が限定的な場合でも、まずはExcelやGoogleスプレッドシートなど、身近なツールでデータを集約し、簡易的なデータベースとして活用することから始められます。
・データクレンジングと名寄せの重要性
製薬業界では異なるソースから集めたデータには、表記ゆれや重複が必ず発生します。
例えば、「山田太郎先生」「ヤマダタロウ医師」といった表記の違いや、複数の施設で従事される場合が多いため、同じ情報でもメールアドレスや施設情報などが別に登録されているケースなどです。
これらのデータを「同一人物」として認識し、統合する「名寄せ」と、不要なデータや誤ったデータを修正・削除する「データクレンジング」は、データ活用の精度を大きく左右します。
多くの製薬企業は会員サイトを構築しているので、会員IDなどでの統合を検討するべきです。
完璧を目指す必要はありませんが、まずは「営業活動で必要なデータ」「マーケティング活動で必要なデータ」を明確にし、簡易的なルールを設けて手動ででも整理を始めることが重要ですし、データクレンジングや名寄せは、データを利用するすべてのタスクにおいて、その質を高める基盤となります。
ステップ2:マーケティングデータで「医師の熱量」を測る
集約したマーケティングデータは、医師の興味関心度合い、つまり「熱量」を測るための強力な指標となります。
・高度なリードスコアリングの実践
MAツールのスコアリング機能を活用し、医師の行動に点数を付けましょう。
-高スコア行動の例
特定の製品詳細ページの複数回訪問、Web講演会の全編視聴、特定の資材ダウンロード、問い合わせフォームへのアクセス(送信はしていない)など。
-低スコア行動の例
一般的な疾患啓発コンテンツの閲覧、メールの開封のみなど。
これらのスコアを合計することで、医師の興味関心度合いを数値化し、「今、最もアプローチすべきホットリード」を特定できます。スコアリングの基準は、営業部門からのフィードバック(後述)をもとに、継続的にチューニングしていくことが重要です。
-製品スコアの例
前述もしましたが、製品毎の興味を判断するためのスコアリング設計を行い、例えば有望製品以外にも興味がある製品を把握していくことも必要です。
・パーソナライズされたナーチャリングの強化
スコアリングによって医師の熱量が可視化されれば、その熱量や興味関心に合わせたパーソナライズされた情報提供が可能になります。
-低スコアの医師へ(Cold)
疾患啓発や一般的な情報提供メールで、興味のきっかけを作る。
-中スコアの医師へ(Warm)
特定の製品や治療法に関する詳細情報、関連Web講演会の案内などで、さらに興味を深める。
-高スコアの医師へ(Hot)
MRからの個別アプローチを促すような、具体的な情報提供や、限定コンテンツへの誘導を行う。
MAツールを使えば、これらのシナリオを自動で実行し、医師一人ひとりに最適なタイミングで情報を提供できます。
ステップ3:MRへの「ホットリード」送客とフィードバック
MAとSFA/CRMのシームレスな連携が難しい場合でも、マーケティング部門が特定した「ホットリード」をMRに効果的に引き渡す仕組みを構築しましょう。
・手動連携の工夫と「見える化」
MAはアンケートフォームを作る機能を持っているため、上記の高スコア医師(Hot)になった段階でアンケートを送信し回答につなげます。そうすることでより現状や課題が具体化された状態でMRに送客することが可能になります。
その他にもMAツールで特定したホットリードのリストを、週次や日次でMRに共有する仕組みを構築します。
例えば、MAからCSVで出力し、MRにメールで送付したり、共有フォルダにアップロードしたりするだけでも、MRは「今、誰にアプローチすべきか」を把握できます。重要なのは、このリストが「MAが医師の行動から導き出した、確度の高いリード」であることをMRに理解してもらうことです。
・MRからの「フィードバック」を仕組み化する
Aから送客したリードが、その後MRの活動によってどうなったのか(商談化、失注、継続ナーチャリングの必要性など)を、MRから定期的にフィードバックしてもらいましょう。このフィードバックは、MAのスコアリング基準やナーチャリングシナリオの精度向上に不可欠です。例えば、簡単なGoogleフォームやExcelシートでフィードバックを収集し、マーケティング部門で集計・分析することで、MAの運用改善につなげられます。
ステップ4:マーケティング活動の「収益貢献」を可視化する
マーケティング部門が直接的に収益貢献を測定することは難しいですが、中間指標や先行指標をKPIとして設定し、その効果を可視化することで、間接的な収益貢献を示すことができます 。
・中間KPIに焦点を当てる
最終的な「処方数増加」だけでなく、マーケティング活動が直接影響を与えられる指標を設定しましょう。
-MA経由の有望医師送客数
MAのスコアリングで「MRに引き渡すべき」と判断された医師の数。
-リードのエンゲージメント率
メール開封率、クリック率、Web講演会出席率、資材コンテンツダウンロード率など。
-Webサイトの特定ページ(例:製品詳細ページ)閲覧数
医師の興味関心の深さを示す指標。
これらのKPIを月次など定期的に測定し、改善サイクルを回すことで、MAの有効性を社内に示し、さらなる投資や連携強化への道を開くことができます。
・ROI測定への第一歩
マーケティング活動のROIを直接計算するのは難しいですが、例えば「一人GPの施設だけの施策実行」や「MAで育成した医師(施設)へのアプローチ数」など、MR営部門と連携して得られるデータと組み合わせることで、マーケティング活動が収益にどう貢献しているかを間接的に可視化できます。
◆中間KPIについてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事もあわせてお読みください。
処方増への道:製薬マーケティングオートメーション(MA)のROIを「見える化」し、効果を最大化する秘訣
製薬業界において、MAが直接的に処方数に影響を与えることは稀であり、その測定は非常に困難です 。だからこそ、MAが最終的な収益に間接的に貢献していることを示す「中間指標」や「先行指標」をKPI(重要業績評価指標)として・・・・・・・続きはこちら
マーケティング部門から「データドリブン文化」を育む
これらの実践を通じて、マーケティング部門は自らデータ活用の中心となり、部門内のデータドリブン文化を育むことができます。
・小さな成功体験の共有
MAで有望医師を特定し、MRへの送客で成果が出た事例、パーソナライズされたメールでエンゲージメントが向上した事例など、具体的な成功を部門内で共有し、モチベーションを高めましょう。
・部門内でのデータリテラシー向上
MAツールの使い方だけでなく、データが何を意味し、どのようにビジネスに活かせるのか、といったデータリテラシーに関する勉強会を定期的に開催することも有効です。
諦めないで!あなたのマーケティングが未来を創る
MAとSFA/CRMのシームレスな連携は、製薬マーケティングの理想形であり、目指すべき姿であることに変わりはありません。しかし、その理想に到達するまでの道のりは、決して平坦ではありません。
重要なのは、「完璧な連携ができないからといって、収益管理を諦める必要はない」という強い意志を持つことです。マーケティング部門が自らの手でデータを集約し、医師の熱量を測り、MRとの連携を強化し、成果を可視化する。この「一歩ずつ、着実に」というアプローチこそが、製薬マーケティングの未来を拓き、持続的な収益成長を実現するための最も現実的でパワフルな戦略となるでしょう。
諦めずに、現場から変革の狼煙を上げましょう。あなたのマーケティングが、きっと未来を創ります。
もし、貴社がMAの活用やデータマネジメントの推進において、こうした課題に直面されているのであれば、ぜひパワー・インタラクティブにご相談ください。貴社のデジタル変革を力強く後押しし、収益最大化への道を共に切り拓きます。
詳しくは「ヘルスケア企業支援」のページをご覧ください。
マーケティングコンサルタント
山下 智
マーケティング戦略策定
Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!



