バリュープロポジションキャンバス活用事例:プラスチックメーカーの製品開発戦略

バリュープロポジションキャンバスは、競争が激化し、顧客ニーズが多様化する中で重要性を増しているフレームワークです。顧客の課題やニーズを深掘りし、企業が提供する価値を明確化することで、潜在ニーズの発見や新たな市場機会の創出を可能にします。このプロセスは、顧客満足度の向上に直結し、ビジネス成功を後押しします。
本事例では、衣料品やバッグにつかう樹脂パーツを製造するプラスチック部品メーカーが、バリュープロポジションキャンバスを活用し、製品開発に成功した取り組みをご紹介します。
今回お話を伺ったのは、商品企画部でプロジェクトリーダーを務める方です。このリーダーは営業部門と連携し、樹脂パーツの企画を推進、顧客ニーズと社内の強みを融合させ、製品開発を牽引しています。本インタビューでは、新製品の開発においてどのような課題に直面し、それをどのように克服したのか、そのプロセスに迫ります。

樹脂パーツの価値転換:顧客体験を重視した製品開発のアプローチ

対象製品と、バリュープロポジションキャンバスを構築した背景をおしえてください。

対象製品はアパレルやバッグに使用される樹脂パーツです。以前作った樹脂パーツ自体には特に問題はありませんでしたが、その樹脂パーツをつかった完成品が使いづらいというフィードバックがありました。当時を振り返ってみると、樹脂パーツ単体の価値だけに焦点を当てていた点に気づきました。

そこで、納品先が満足しても、最終的にはエンドユーザーにとって使いやすく満足度の高い完成品でなければ意味がないという視点に切り替え、今回は樹脂パーツが組み込まれる完成品のバリュープロポジションキャンバスを構築しました。

通常は「完成品」の顧客体験まで考えるものでしょうか?

通常、樹脂パーツのようないわゆる中間製品の企画段階でそれを含む完成品の顧客体験まで考慮することは少ないかもしれません。ただ、私は「提供する側も使う側も自分」という意識を持っています。そのため、完成品の使い勝手や価値も意識してバリュープロポジションキャンバスを構築しました。

完成品の顧客体験を考える必要性を感じる人は多いと思いますが、中間製品を納品する顧客の要望を覆すことには労力が伴うため、実行に移すのが難しいのが現実です。社内でも「そこまでやる必要があるのか?」という声が上がるのは当然だと思います。しかし、そうした意識を変えていくことこそが、メーカーとしての課題だと感じています。完成品の価値を意識することで、より高い顧客満足度が実現できると信じています。

徹底した調査と責任ある決断が支えた製品開発の軌跡

バリュープロポジションキャンバス構築に関与したメンバーついて教えて下さい。

プロジェクトメンバーは営業部門1名、企画部1名、商品開発部2名の計4名で構成しました。上司をメンバーにいれませんでした。上司の発言があると責任が曖昧になり、プロジェクトの方向性に影響を与える可能性があるからです。助けが必要なときだけサポートをお願いする形にしました。一般的には社内調整のために役職者を入れることもあると思いますが、私は組織調整能力に自信があるので、その必要はないと考えました。

バリュープロポジションキャンバスを用いた商品開発はどのような手順だったのでしょうか。

大まかには4つのステップで進めました。

1.ビジネスモデルキャンバスの構築
プロジェクトは、まずビジネスモデルキャンバスの構築からスタートしました。この段階では、新製品を開発するという大枠の方向性を定め、対象製品が確定していない状態で進めました。

ビジネスモデルキャンバスを構築してよかった点は、全体像の共有と「前提条件」を明確にすることができた点です。プロジェクトが進行する中で、様々な社内の関係者と話す機会が増えますが、議論が進むにつれて話題が様々な方向に広がることがよくあります。話が脱線してしまうことを防ぐためにも、現状の討論結果をビジネスモデルキャンバスにアップデートし、話し合いの前提を整理することで、コミュニケーションがスムーズに進みました。


2.バリュープロポジションキャンバスの構築
次にバリュープロポジションキャンバスを組み立て、アパレルやカバンなどの完成品に対してメンバーが抱える不満や課題を共有しました。その結果、特定の樹脂パーツに焦点を当てることに決め、ここで多くの調査をおこないました。

特にニーズの深掘り調査に力を入れました。その際、重要なのは「なぜ」を繰り返す分析です。これにより、表面的な答えにとどまらず、根本的な原因や真のニーズを明確化できました。「どこまで調査すべきか?」とよく聞かれますが、私は最終的に人に説明できるだけのロジックを見つけることが調査のゴールだと考えています。

ただ矛盾するようですが、私自身ひらめきや直感的なアイデアも重要な要素だと考えています。


3.顧客セグメントとペルソナの仮説構築とコンセプト立案
顧客セグメントとペルソナの仮説を立てる際には、チーム全員で意見を出し合いながら進めました。バリュープロポジションキャンバスを基に何度も振り返りをおこない、議論を繰り返しながらブラッシュアップを重ねました。


4.インタビュー
当時はコロナ禍でしたので、インタビューは社員に対してリモートで実施しましたが、3週間をかけて社員20名から貴重な意見を収集しました。 インタビューでは、主に既存製品の改善点を尋ねましたが難航しました。潜在的なものであるほど言語化するのは難しく、少しの不便であれば「仕方ない」と思ってしまい不満としては表面化しないことが多いんです。
そこで、「これがあったらどうですか?」と意図的に比較対象を提示し、コンセプトから生まれた付加価値を具体的に見せることで、不満点や改善点を引き出しました。

その後、これらの成果を基に試作品を作成し、小売メーカーに提案しました。

他社調査などはどうしたのでしょうか。

樹脂パーツの開発を進めることが決まった後は、並行して他社調査や特許調査を実施しました。製品が他社の特許を侵害していると、販売できないリスクがあるため、この調査は非常に重要です。また、他社に模倣される可能性がある技術であれば、せっかく作った製品が無意味になってしまいます。そのため、製造業においては、いかに特許を取るかが競争力に直結します。 最近では特許分析はAIを活用して効率的に進めることができ、ここで得られた情報を基に、最適な特許戦略を実施しました。実際、今回も特許を取得することができ、製品に対する独自性と競争力を確保することができました。

意思決定をするタイミングというのは多くあったと思うのですが、どのようにされていたのでしょうか。

意思決定のタイミングは多くありましたが、参加メンバーの意見を尊重しつつ、最終的な決定は一人でおこなうことが多かったです。意思決定においては多数決ではなく一人でおこなうことが重要なポイントだと感じています。なぜなら、決定に対する責任を誰か一人に集中させることで、最終的な結果に対する責任のなすりつけを防げるからです。

よくあるのは、マーケティングや営業、設計など、部門間で責任を押しつけ合うことです。なすりつけ合いをしても反省には繋がらず、前に進めません。そのため、責任を持った人間が反省し、次に活かすことが大事だと思っています。

責任を持つ代わりに、私は自分のやりたい通りに進めさせてもらう要望を出します。こだわって100点を目指すために最終的な結果に責任を持つという覚悟を持って進めていきました。

バリュープロポジションキャンバスが生んだ成功:市場投入から広がる展開へ

バリュープロポジションキャンバス構築の成果と今後の課題についておしえてください。

バリュープロポジションキャンバスを活用して製品企画を進め、結果としてその考えを反映させた樹脂パーツが完成しました。このプロセス自体は成功し、実際に製品を市場に投入することができました。製品自体も好評を得ており、それが使われている完成品の口コミも良好で、売上にも良い影響を与える結果となりました。

今後の課題としては、その樹脂パーツをどのように横展開していくかが重要です。特定の顧客に納品した樹脂パーツではありますが、他社の小売メーカーにも販売可能な製品ですので、今後どのように他の顧客層に広げていくか、またそれをどう戦略的に繋げていくかが、次の大きなチャレンジとなります。

プロジェクトの舞台裏:コンサルタントが語る成功の秘訣

多くの人が製品の売上に責任を負いたくない中で、「責任を取るからこそ、自分のやり方で進めさせてほしい」という強い意志を貫く姿勢が印象に残りました。その覚悟が、プロジェクトの推進力として大きな役割を果たしていると感じました。

また、調査において「ひらめきも大事にしている」と語っていましたが、単なる直感ではなく、徹底的に行った調査の結果がひらめきの源泉となっていると思います。

AIの活用についても触れていましたが、バリュープロポジションキャンバスの構築においても積極的に活用すべきだと思います。事務的な調査や情報収集の部分はAIに任せ、人間ならではの感性を活かしたニーズのヒアリングや深堀りに時間をもっとかけるべきだと感じました。

バリュープロポジション構築は、単なるメッセージの整理にとどまらず、事業成長や競争優位性の確立に直結する重要なプロセスです。当社では、このプラスチック部品メーカーの事例のように、顧客ニーズに即した価値提案を構築し、それを実現可能な形で社内外に浸透させる支援を提供しています。

もし貴社でも以下のようなお悩みをお持ちであれば、ぜひ当社のサービスをご検討ください。

・価格競争に巻き込まれ、製品やサービスの差別化が困難
・顧客視点での価値定義やニーズの把握に課題がある
・市場における競争優位性を明確化したい

詳しくは、以下のページをご覧ください。
バリュープロポジション企業研修
https://www.powerweb.co.jp/service/valueproposition/

山田 俊也

マーケティングコンサルタント

山田 俊也

マーケティング戦略策定

BtoB企業を中心に、マーケティング戦略設計から施策の実行までサポート。Marketo Engageを使ったコンサルティングの実績を多く持つ。
社外に向けた無料・有料セミナーの企画、講師も担当。のべ50回以上の登壇実績。Adobe社が提供するMarketo Core Concepts Ⅱの講師を勤める。
育児のための長期休暇を取得、仕事復帰後は子育て奮闘中。

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