インタビュー

ウェビナーを手段としたマーケティングDXを提供

ON24合同会社日本法人 カントリーマネージャー 上田善行 氏

ON24合同会社日本法人 カントリーマネージャー 上田善行 氏

アメリカのサンフランシスコに本社を置くON24(オン・トゥエンティーフォー)は、BtoB法人向けウェビナーおよびイベントプラットフォームのグローバル企業です。世界で2,100を超える企業をサポートし、数百万人の規模で見込み顧客を顧客へコンバートしています。
ON24は2020年11月に日本法人を立ち上げ、国内での活動を展開しています。日本法人のカントリーマネージャーに就任したのが上田氏です。上田氏は、エンタープライズITとデジタルエクスペリエンスの分野において、20年以上の経験を持っています。そんな上田氏に、世界と日本の マーケティング環境の違いやウェビナーマーケティングの現状、成功のポイントなどについてお話を伺いました。

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新型コロナウイルスの影響で、日本にも「リモート」という概念が定着

御社の事業概要について教えてください。

ON24は、ウェビナーマーケティングおよびオンラインイベントを軸にしたデジタルエンゲージメントプラットフォームを開発・提供する、アメリカ・サンフランシスコ発の企業です。2021年2月にニューヨーク証券取引所へ上場しました。ウェビナー専業のプラットフォームとして は、おそらく唯一上場している企業だと思います。

外資系の同業他社で私たちのように日本法人を構えて展開する企業は、まだ多くはありませんが、アメリカやヨーロッパでは競合企業が30社ほどあります。例えば、「GoTo ウェビナー」を提供しているGoTo社や「Hopin Events」を提供しているHopin社などです。日本国内では、EventHub社やブイキューブ社を意識しています。

日本法人を立ち上げた背景を教えてください。

アメリカやヨーロッパではコロナ禍以前からウェビナーは浸透していましたが、日本は違いました。コロナ禍以前の日本は、社会的・文化的にウェビナーの馴染む土壌が無かったのです。アメリカの場合、本社機能がさまざまな州に分散しています。タイムゾーンが異なりますし、物理的に距離が遠いので対面で会うのが大変です。アメリカではネットワーク環境がそれほど良くなかった時代から電話会議をしていました。元々「リモート」という概念が定着しているため、ウェビナーも浸透しています。これはヨーロッパも同じです。

日本の場合は本社機能が東京に集中していて距離も近いため、対面で会いやすいですよね。
それが新型コロナウイルスの影響で一気に「リモート」が定着し、多くの企業がウェビナーを始めるようになりました。強いニーズが喚起されたので、私たちは長期的なコミットを持って日本市場に参入したのです。

日本のウェビナー活用は第1段階

日本のウェビナー活用の現状について、どのように見ていますか?

ウェビナー活用には3つの段階があります。第1段階は「オフラインでおこなわれるセミナーの置き換え」、第2段階は「デマンドジェネレーションのためのウェビナー活用」、第3段階は「高度化されたデマンドジェネレーションのためのデータ統合・活用」です。

現在の日本では、第1段階の「オフラインでおこなわれるセミナーの置き換え」が主流です。配信とリード獲得が目的となっており、アメリカやヨーロッパに比べて10年遅れています。アメリカやヨーロッパでは第2段階の「デマンドジェネレーションのためのウェビナー活用」が展開されています。デマンドジェネレーションというのは、案件の創出です。リードはあくまで顧客リストですが、デマンドは案件となります。マーケティングの成果は、案件を作ることにあります。

さらに第3段階の「高度化されたデマンドジェネレーションのためのデータ統合・活用」では、ウェビナーとMA(マーケティングオートメーション)やCRMを連動してデータ統合・活用を行います。これによってウェビナーで作った顧客接点を分析し、案件化をスムーズに進めることができるのです。

企業と顧客との接点には、広告やWebサイト、メールやSNS、ウェビナーなどがあります。この中で最もお客様と接する単位時間が長いのがウェビナーです。広告やメール、SNSだと数秒くらい、ウェブサイトで数分くらいですが、ウェビナーは30分以上の時間をお客様と過ごせます。この時間をいかに有効活用するかが大事です。オフラインで開催されるセミナーでは顧客の興味関心をデータ化するのは難しいですが、ウェビナーの場合は可能です。視聴データを分析することで、フォローすべき優先順位の高いリードを見つけることができます。

第3段階に到達している日本企業は、ソフトバンク社など全体の1%くらいだと思います。データを統合して活用している企業は、まだまだ少ないです。

データの活用は、新規顧客だけではなく既存顧客も含めて考えなければなりません。ABM(アカウントベースドマーケティング)という概念です。お客様となる企業の担当者が、提供する側である私たちのサービスや製品をどれくらい知っているのかを分析する必要があります。

お客様である企業のA部長が、私たちのB製品のウェビナーは見てくれている。でも、C製品のウェビナーは見ていないから、C製品のことを知ってもらうようにしよう。あるいは、B製品のウェビナーを見て知ってくれているから、同様のアプローチをするべきだよね、といった検討が行えます。これがデータ活用なのですが、実施できている企業は少ないです。

段階ごとに紹介しましたが、各段階を順次踏む必要はありません。第1段階から第2段階を飛ばして第3段階に行っても構いません。私たちが提供するプラットフォームは第3段階を提供しているので、こうしたツールを活用すれば、すぐに第3段階へ行けます。

製薬業界は、圧倒的にウェビナーの活用度が高い

日本ではウェビナーの活用が進んでいないとお話しましたが、製薬業界は別です。日本でも製薬業界は、コロナ禍以前からウェビナーを活用しています。他の国と比べても遜色がありません。なぜかというと、製薬業界は医者とのコミュニケーションが必要だからです。医者は忙しくてなかなか直接会う時間が無い中で、薬や症例などの情報を伝えなければなりません。また、薬機法(旧・薬事法)により広告が規制されている関係で録画されたコンテンツの配信には国の承認が必要です。そのため、タイムリーに情報を届けるために、ライブウェビナーが必要となります。

製薬業界では、さまざまなレベルのウェビナーを開催しています。本社主導の大型ウェビナーから地区レベルのウェビナー、MR(医療情報担当者)が行うウェビナーなどです。製薬企業のウェビナーは、回数で言うと年間1,000回を超えていると思います。これほど多くのウェビナーを開催している業界は、日本には他にありません。しかし、アメリカやヨーロッパでは、製薬業界以外でもこれくらい開催しています。

基本的に製薬企業はグローバルに展開しているので、ウェビナーもグローバルレベルに運用されています。日本の全産業が製薬業界を見習うべきです。製薬業界には、MAも入り始めていますし、VeevaのようなバーティカルSaaSとの連携も進んでいます。これによってデータ統合が効率的に行われています。

ウェビナーのデータ活用で必要なことは何でしょうか?

まずは戦略が必要です。お客様と言っても、現場の方から決裁権のある方、経営層の方まで様々です。お客様によって関心事が異なるので、自社で保有するコンテンツをマッピングする必要があります。マッピングをして、どの役職層向けのコンテンツが足りないのかを見つけていきます。かつ、購入するまでのステージであるバイヤージャーニーごとのコンテンツも必要です。

役職レベルとバイヤージャーニーごとのコンテンツが必要になるのですが、コンテンツ担当者が日本にはあまりいません。私たちがお客様とお話をしていてよくある問題の1つに、コンテンツが作れないという問題があります。これはウェビナーに限らず、企業が作り出すべき全てのコンテンツに対して共通の問題です。

日本企業に欠けているマーケティング組織の細分化とKPI

この問題は組織論につながります。アメリカやヨーロッパと日本を比較したとき、何が一番違うかというと組織です。アメリカやヨーロッパの企業にはデマンドジェネレーション組織が必ずあります。でも日本には、ほとんどありません。日本には、CMO(チーフマーケティングオフィサー)のいる企業も少ないですよね。マーケティング部すらない企業も多いです。「広報宣伝」や「営業推進」といった名称の部がマーケティングを担当しているケースがありますが、役割が違います。こうした組織には、マーケティング部にあるべきKPIすら存在しません。

日本のマーケティング担当者に「マーケティングの何を担当しているの?」と聞くと「マーケティング全般です」と答える方がいます。アメリカやヨーロッパではありえません。役割が細分化されているのです。例えば、製品・サービスを扱っている企業では、フィールドマーケティング部でイベントなどのお客様に近い場での活動を、デマンドジェネレーション部は広告含め需要を喚起する活動を行っています。また、プロダクトマーケティング部は製品・サービスの深い知識が必要とされ、コーポレートマーケティング部は企業として伝えるべきこと、採用も含め企業全体の活動を担っています。アメリカやヨーロッパでは人材流動性が高いので、何でもやってくださいという組織だと困るわけです。基本的にはジョブ型組織です。

日本はそうではありません。だから、デマンドジェネレーションをやるとなった際に「誰がやるの?」となり、やる人がいなくて他の役割と兼務することになってしまいます。完全に組織の問題です。

KPIは事業計画から逆算して考える

近年インサイドセールスを導入する企業が増えてきましたが、リードを営業に渡して終わるパターンも多いです。自分たちは会社のために何をやっているのだろう?と悩んでいるマーケティング担当者も多いと思います。

だからこそ、CMOの存在が必要です。マーケティングのKPIは逆算して考えていかなければなりません。事業計画から売上目標が決まり、目標達成するための方法を考えます。現状の平均顧客単価がいくらで、アップセルをどれくらいしていけばいいのか、チャーンレートはどれくらいなのか。また、新規顧客、新規受注がどれくらい必要で、そのためにどれくらい商談数が必要なのか。その商談数を達成するためには、どれくらいのリードが必要なのか。リードを獲得するためには、どれくらいの集客が必要なのか。

このように、事業計画から細かく分解して目標設定ができます。アメリカやヨーロッパでは当たり前ですが、日本にはこの考えの無い組織がたくさんあります。これを直さなければなりません。ただし、日本でも柔軟な発想ができて、リスクを恐れない若い組織はあります。そういった組織がどんどん増えて欲しいと思います。

ウェビナーで成果をあげるには、システムに合わせた業務変革が必要

日本企業がウェビナーでマーケティング成果をあげるポイントを教えてください

ON24を導入することですよね(笑)。
もう少し具体的に説明しますと、日本企業はシステムのカスタマイズ思考が強いです。業務を変えられないから、システムを変えようとします。本来はシステムに合わせて業務を変えるべきです。そうしなければ、どうやってトランスフォーメーションするのでしょうか。

私たちON24はウェビナーという飛び道具を売っているわけではなく、マーケティングDXをやろうとしているわけです。私たちのプラットフォームで実現したいのはデマンドジェネレーションです。ウェビナーはあくまで手段にすぎません。

例えば、ツールを使ってライブでウェビナー配信をしていた企業が、ライブウェビナーの比率を20%にして、80%は収録したものをテレビ番組のように配信します。私たちはこれを擬似ライブと呼んでいます。この方式に変えることで、運用が自動化し、効率的になり、より多くのコンテンツの作成と配信ができます。これまではライブでウェビナーをやろうと思ったら、時間になったら配信ツールを開いて話をする必要がありました。時間になったら収録した動画の再生ボタンを押して流すケースも多いです。こうしたことを全て自動化していくと、少人数で多くの結果を得られるようになります。効率化が目的ではなく、より多くの成果を出すために、効率化する必要があるということです。

さらに、お客様のウェビナー中の細かな行動ログをもとに自動的にスコアリングされたエンゲージメントスコアを用いて営業の効率化が可能です。ウェビナーを見に来たお客様が本当に自社の製品に興味があるのか、もしくは単なる情報収集目的なのかが分かります。それを営業にフィードバックすることで、営業がリストの全てに電話をする必要が無くなるわけです。

アメリカやヨーロッパでON24を導入しているお客様の90%以上は、MAやCRMと連携することが前提です。ON24とMAやCRMを連携させることで、マーケティングのシナリオがより洗練され、組織全体でウェビナー中の行動を含めた顧客の360度ビューを共有し、デマンドジェネレーションが実現します。日本の生産性は低いとよく言われていますが、生産性が高くならないのはツールを導入しても同じ業務をしているからです。

生産性だけではなく、単位時間あたりの付加価値も上げなければなりません。付加価値を上げなければ、給料も上がりません。アメリカのマーケティング担当者は、少なくとも年間15万ドルの給料を貰っています。地域によっては更に高いです。日本のマーケティング担当者の給料は低いですよね。難しい問題ですが、こういった問題を迂回し続けるわけにはいきません。だからこそこうして発信をしていきたいと考えています。経営層レベルで、マーケティングやコンテンツの重要さを理解してもらわなければなりません。

プロフィール

上田善行 氏
ON24合同会社 日本法人 カントリーマネージャー

エンタープライズ向けIT業界において20年以上の事業経験を有し、ON24のカントリーマネージャーとして日本事業を統括。一貫して、企業のデジタル体験向上に関するソリューション提供に取り組む。アクイアジャパン合同会社セールスディレクター、CI&T株式会社取締役ビジネスディレクター、株式会社ロココ取締役営業本部長などを歴任。

インタビュー後記

ON24はウェビナープラットフォームを売っているのではなく、マーケティングDXの実行、デマンドジェネレーションを実現することを提供している。日本企業のウェビナー活用は、まだ第1段階の「オフラインでおこなわれるセミナーの置き換え」であり、活用が進まないのは、デマンドジェネレーションを責任を持って進める部署がなく、担当者も兼務していることが要因している。完全に組織の問題だと、上田氏は指摘します。
コロナ禍になって3年、ウェビナーは定着しましたが、ウェビナーを活かしてデマンドジェネレーションを推進するためのマーケティング組織づくりが大きな課題であることを改めて認識しました。

インタビュー実施日:2022年12月12日

広富 克子

取締役/執⾏役員

広富 克子

コンテンツマーケティング支援

神⼾⼤学経営学部卒業。住友ビジネスコンサルテイング株式会社⼊社。マーケティングリサーチ・コンサルティング業務を中⼼に活動し、その後AJS(オール⽇本スーパーマーケット協会)にて、プライベートブランドの商品開発・営業に従事。2003年10⽉、株式会社パワー・インタラクティブ⼊社。2006年4⽉、取締役執⾏役員に就任。全社営業戦略を統括する。

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