コラム

<ここが変だよ!日本のデータ活用とデータマネジメント>【後編】データ活用を推進するガバナンスとは

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「ここが変だよ!日本のデータ活用とデータマネジメント」シリーズでは、日本企業におけるデータ活用の現状と課題について考察しています。
前編では、主に、多くの企業がデータ活用に遅れをとっている要因について解説しました。
後編では、日本企業が直面する組織的な課題について詳しく掘り下げ、データ活用をさらに促進するために重要なことを解説します。

データを活用するために克服すべきポイント

日本企業がデータをより効果的に活用するためには、まずデータ入力、収集、蓄積の各段階での課題を克服する必要があります。これらのプロセスは、データ活用の基盤となるものであり、ここでの改善が全体の効果を大きく左右します。

営業部門におけるデータガバナンスの比較(日本 vs 米国)

  日本 米国
データ入力 <性善説>
データを入力しなくても「ペナルティ」がない。データに対するガバナンスが弱い。
<性悪説>
データをきちんと入力し、受注申告をしないとインセンティブが貰えない。データ入力に対するガバナンスが自動的に効く仕組み。
データ収集 <受動的>
自分でデータを収集したり、分析する習慣やスキルがない。
<能動的>
アクセス権を申請し自分でデータを収集しにいく。
セルフサービスBIが前提なので分析することが当たり前。
データ蓄積 <ウォーターフォール>
おおがかりなデータ基盤を全社横断で作るため、リリースまでに時間がかかる。
<アジャイル>
できたところから、直ぐにデータ基盤が公開される。徐々に、利用できる範囲が広がっていく。

日本の多くの企業では、データ入力に対するガバナンスが弱く、入力が任意であるため、正確なデータ収集が困難です。その結果、データの品質が著しく低下します。
また、データを自分で収集して分析する習慣やスキルが不足しているため、分析結果の信頼性が損なわれます。

データを蓄積するための基盤に関しては、時間とコストを掛け過ぎる傾向があります。データ基盤の構築自体がゴールとなってしまい、それ故、データ活用が進まないのかもしれません。データ基盤の構築に工数を掛ける割には、データ活用に対しては、さほど固執していないように思えます。

データ入力・収集・蓄積の改善策

カテゴリ 改善策
データ入力 データガバナンスチームを中心に、データ入力の重要性と方法を従業員に対して、トレーニングを行い、根気強く啓蒙し、伴走する。
データ収集 従業員に対して、必要なデータにアクセスできる権限を広げ、データ分析スキルを向上させるためのトレーニングを提供する。
データ蓄積 全社的な大規模プロジェクトではなく、小規模なプロジェクトから始める。

データ入力に対しては、ガバナンスを効かせるしか方法はありません。もちろん、サービス側の入力方法にも工夫が必要で、必須項目を減らすとか、誤りがないように選択式にするとか、曖昧な入力を極力排除する必要があります。

また、データ分析の前段階として、利用している各サービスのデータ構造を正しく理解する必要があります。図式化するなど、相関関係を正確に認識する必要があります。

データ基盤については、構築にアジャイル手法を取り入れ、柔軟に対応しながら進めていくことが大事です。また、小さな成功を積み重ねることで、データ活用の文化を醸成することも重要です。

異なる立場を考慮したデータ基盤とデータ活用の仕組みづくり

データ活用を妨げる大きな要因の一つは、組織内の各部門が異なるツールを使用していることです。これにより、データの統一と連携が難しくなり、全社的なデータ活用が進まない原因となっています。

例えば、A事業部ではAccount Engagement(旧Pardot)とSalesforceを使用し、B事業部ではAdobe Marketo Engage とSalesforceを使用するケースが見られます。また、マーケティング関連のデータを収集する際に、本部や事業部にマーケティングの機能が分散されていたりします。これにより、データの連携が難しくなり、統一的なデータ分析ができなくなります。

立場によるデータのニーズの違い

データ活用においては、部門ごとのツールの違いに加えて、立場によって求められるデータの内容や粒度が異なることも課題となります。

立場 見える化の深度 視点と要望
経営層 全体俯瞰 ビジネス全体を「俯瞰」してデータを把握したい
管理者 注視 施策毎にさらに深く堀り下げてデータを「注視」したい
担当者 診断 細部まできめ細かくデータを診て、ボトルネックを特定したい

これらの異なるニーズに対応するためには、必要最低限の情報を集約した「型」に情報を当てはめて、部署毎に用意してあげることが、解決策だと考えています。必要最低限の情報を集約した「型」にはめるとは、ダッシュボードで実装することです。つまり、柔軟なデータ基盤とカスタマイズ可能なダッシュボードが必要です。

異なる立場を考慮したデータ基盤の構築

異なる立場や部門のニーズを満たすためのデータ基盤は、以下の要件を満たす必要があります。

No. 要件 詳細
1 柔軟性 各部門やユーザーが必要なデータにアクセスしやすく、カスタマイズ可能なデータ基盤であること
2 一貫性 異なるシステムから収集したデータが統一されたフォーマットで管理されること
3 リアルタイム性 データがリアルタイムで更新され、常に最新の情報が提供されること

データ基盤を構築し活用することで、各部門や立場毎に必要なデータを集約し、適切に管理することが可能になります。これにより、異なるシステム間でのデータ連携がスムーズに行われ、データの一貫性が保たれます。

データ基盤のステップと注意点

データ基盤の構築のステップは、前編の「データ基盤の構築」を参考にしてください。尚、データ基盤を構築する場合、データセキュリティとプライバシーには、特に注意が必要です。 データのセキュリティとプライバシーを保護するために、アクセス制御、暗号化、監査ログの対策を講じる必要があります。

ダッシュボードの実装手順

実装の手順については、2024年5月31日にデジタル庁から公開された「ダッシュボードデザインの実践ガイドブック」がとても解り易く解説をしており、初心者にはお薦めです。是非、参考にしてみてください。

データ基盤の運用と最適化

データ基盤の運用は、一度構築したら終わりではなく、継続的に最適化していくことが求められます。以下のステップで運用と最適化を進めます。

No. ステップ 詳細
1 運用ルールの徹底 定められた運用ルールを全社員に徹底させるための仕組みを構築する。
2 データのモニタリング データの使用状況や品質を定期的にモニタリングし、問題点を早期に発見・解決する。
3 ユーザーからのフィードバック ユーザーからのフィードバックを積極的に収集し、ダッシュボードやデータ基盤の改善に反映する。

組織全体でのデータ活用推進

データ活用を全社的に推進するためには、各部門が連携してデータを共有し、一貫した戦略のもとで行動することが必要です。ガバナンスチームのリーダーシップのもと、データ基盤の整備とデータリテラシーの向上を図り、組織全体でデータドリブンな意思決定を行う体制を整える必要があります。

データ活用を推進するためのデータ基盤と組織横断のガバナンスチーム

データ基盤の運用とガバナンス強化

データ基盤の運用には、定期的なデータクレンジングとメンテナンスが不可欠です。現場での日々のデータクレンジング作業を怠ると、データの質が低下し、信頼性のある分析結果が得られなくなります。データガバナンスチームが中心となり、データの品質管理と運用の改善を継続的に行うことが重要です。

データ活用の成功には、データガバナンスの強化が必要不可欠です。ガバナンスチームには、データ管理のルールやプロセスの整備など、全社的に徹底することが求められます。また、各部署へ趣き、課題を解決するために、協力してデータを共有し、連携するための仕組みを構築することも重要です。

<参考文献: 実践的データ基盤への処方箋 (著者)ゆずたそ・渡部鉄太郎・伊藤徹郎 第1章 データ活用のためのデータ基盤 図1-1 データ基盤の全体像 P2>

データ基盤とガバナンスチームの連携

効果的なデータ活用を実現するためには、データ基盤とガバナンスチームが密接に連携することが重要です。ガバナンスチームは、データ基盤の運用において発生する課題を迅速に解決し、データの品質とセキュリティを維持するための体制を整えます。また、データ基盤の利用状況をモニタリングし、改善点をフィードバックすることで、継続的な運用改善を図ります。

ガバナンスチームの役割と定着

ガバナンスチームの役割は非常に重要で多岐にわたる役割を担います。ガバナンスチームは、データ管理のルールやプロセスを策定し、全社的に徹底するための以下の活動を行います。

No. 活動内容 詳細
1 データポリシーの策定 データの収集、保存、管理、利用に関するルールやポリシーを定め、ガイドラインを策定し従業員に周知徹底する。
2 データ品質の管理 データのクレンジングや名寄せ作業を継続的に行い、データの質を維持する。また、定期的にデータ品質をチェックし、不整合を早期に発見・修正するプロセスを整備する。
3 トレーニングの実施 データリテラシー向上のためのトレーニングプログラムを提供し、従業員のスキルを向上させる。
4 定期的なレビュー データ基盤の運用状況を定期的にレビューし、改善点を洗い出して対策を講じる。
5 セキュリティとコンプライアンスの確保 データのセキュリティ対策を強化し、法規制や業界標準に準拠するための施策を実施する。

また、データガバナンスを定着させるためには、以下のポイントが重要です。

No. ポイント 詳細
1 トップダウンアプローチ 経営層が率先してデータガバナンスの重要性を訴え、全社的な推進力を持たせる。
2 現場の巻き込み 現場の従業員にもデータガバナンスの重要性を理解させ、実務レベルでの協力を得る。
3 継続的な改善 一度設定したガバナンスルールに満足せず、継続的に改善を図る姿勢を持つ。

データ活用の組織文化の変革と醸成

データ活用の進展には、組織文化の変革も必要です。データドリブンな意思決定を推進するためには、経営層から現場まで、全員がデータの重要性を理解し、データに基づく行動を取ることが求められます。データ活用の成功事例を共有し、データドリブン経営のメリットを広めることで、組織全体の意識を高めることができます。

また、組織全体でデータドリブンな文化を醸成するためには、経営層から現場まで、すべての従業員がデータの重要性を理解し、日常業務でデータを活用する習慣を身につけることが求められます。

No. 醸成手段 醸成方法
1 成功事例の共有 データ活用によって得られた成功事例を社内で共有し、データ活用のメリットを実感させます。
2 データ活用のトレーニング 定期的なトレーニングセッションを開催し、データの分析方法や活用方法を学ぶ機会を提供します。
3 データ活用の奨励 データを活用した業務改善や成果を評価し、インセンティブを与えることでデータ活用を促進します。

組織全体でのデータ活用の習慣化

データ活用に終わりはありません。ガバナンスチームが中心となり、データを活用するための運用設計も大事で、現場での名寄、データクレンジングなど、地味な仕事がとても重要です。後々、ボディーブローのように効いてきます。さらに、データ活用を定着させるためには、日々のルーティング業務に組み込み、身体にしみ込ませるように『習慣化』することが大事です。「習慣化」が定着することによって「新たな気づき」を徐々に発見できるようになります。

まとめ

日本企業がデータ活用を推進するためには、まずデータ基盤の整備とガバナンス体制の強化が必要です。データの一貫性と整合性を確保し、各部門が協力してデータを共有する体制を構築することで、データドリブンな経営を実現できます。また、従業員のデータリテラシーを向上させ、データを活用する文化を醸成することも重要です。これにより、意思決定の質とスピードが向上し、競争力の強化につながります。データをもっと活用して、新しい気づきを発見し、ビジネスの成長を加速させましょう。

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