はじめに
現代のビジネス環境では、データ活用がますます重要となっています。特に、日本企業はその潜在能力を最大限に引き出すために、データドリブンな意思決定を取り入れることが求められています。しかし、多くの企業がデータ活用に遅れをとっている現状があります。本コラムでは、データ活用が進まない理由を振り返り、理想的なデータ活用とデータガバナンスのあり方について考察し、その解決策を見出すことを目的とします。
データ活用とは、「課題の解決を目的とした、データを収集、蓄積、処理、分析、活用する一連のプロセス」と定義されています。
データ活用はあくまでもビジネスの課題を解決するための手段です。この基本的な考え方を念頭に置いて、データ活用の現状と課題を考察していきます。
日本市場を取り巻く特異な環境
インフラの変移(集中と分散)に伴い、ソフトウェアを導入する際、選択(Best of Breed or Sutie)を余儀なくされました。本来であれば、その都度、データを活用するための仕組みを構築するべきなのですが、データを活用しなくても、そこそこの売れる特異な市場が日本にはありました。
インフラの変遷とデータ収集の進化
インフラは集中と分散を繰り返し、ソフトウェアはBest of BreedかSuiteかの選択でしのぎを削っています。メインフレームやC/Sシステム全盛の頃はそれほどデータが取れなかったため、営業マネージャーはそれほど多くのデータを見る必要がありませんでした。当時の技術環境では、データの収集や分析は限られたリソースで行われており、大量のデータをリアルタイムで活用することは困難でした。
ソフトウェア契約形態の変化
ソフトウェアの契約形態がサブスクリプションに変わり、クラウド提供が進むにつれて、ツールの導入が急速に進みました。これにより、データの収集と分析がより容易になった反面、ツールの多様化と分散が新たな課題を生んでいます。特に、全社的なデータガバナンスの確立が困難になり、データの一貫性や整合性が保たれにくくなっています。
ガバナンスの緩和とデータの混乱
全社単位での一元管理が従来のデータガバナンスの基本でしたが、部署単位でのツール導入が可能となり、ガバナンスが緩和されました。この結果、データの収集量は増えたものの、誰がどのデータをどのように扱うべきかが不明確になっています。データの質と一貫性が確保されていないため、データを活用するための組織体制が整っていないのが現状です。
データ活用の組織的課題
データ活用が進まない背景には、組織的な課題も存在します。企業全体でデータ活用の重要性は理解されているものの、実際の運用面での課題が多く残されています。例えば、データの収集から分析、活用に至るまでの一連のプロセスが組織内で統一されていない場合、データの断片化や重複が発生しやすくなります。これにより、意思決定のための正確なデータ分析が難しくなります。
このような課題を克服するためには、まずデータガバナンスの強化が必要です。全社的なデータガバナンスポリシーを確立し、各部署でのデータ管理方法を統一することが重要です。また、データの一貫性を保つためのツールやプラットフォームの導入も検討すべきです。さらに、データの収集・分析能力を向上させるための人材育成や教育プログラムの強化も欠かせません。
日本企業がデータ活用を進める上で直面する二つ目の大きな障壁は、ソフトウェアの個別最適化に起因するものです。これは日本特有の問題とも言えます。多くの企業が、それぞれの部門や業務プロセスに合わせて最適なソフトウェアを導入しているため、部門ごとに異なるシステムが乱立し、データの統合や連携が困難になっています。
例えば、見込顧客データは「マーケティングオートメーション(MA)」システムに存在し、商談データは「営業支援システム(SFA)」や「顧客関係管理(CRM)」システムに存在します。また、売上データは「契約管理システム」や「顧客管理システム」に保存されています。こうした個別最適の結果、データの断片化が進み、データの一貫性や整合性が失われるリスクが高まります。
SFA/CRM上の商談金額と契約管理システムの契約金額が一致しないことも多く、この「データの不一致」がデータ活用における致命的な障害となります。データの不一致が発生する原因は、システム間でのデータ連携が不十分であったり、各システムが異なるフォーマットや基準でデータを管理していることにあります。
このようなデータの不一致がビジネスに与える影響は甚大です。まず、データ分析の結果が信頼できないものとなり、意思決定の質が低下します。さらに、マーケティングや営業活動の効果測定が困難になり、効率的な施策の実行が妨げられます。
こうした課題を解決するためには、全社的なデータ統合が不可欠です。各部門が個別に最適化されたシステムを使用すること自体は問題ありませんが、それらのシステム間でデータをスムーズに連携させるための仕組みが必要です。例えば、マーケティングの効果測定を行う場合、MA、SFA/CRM、契約管理システムのデータを統合し、一貫した視点で分析することが求められます。
データ基盤の構築
データ統合を実現するための第一歩として、データ基盤の構築が推奨されます。データ基盤とは、企業内のすべてのデータを統合・管理し、必要に応じて分析や可視化を行うためのプラットフォームです。これにより、各システムから取得したデータを一元管理し、整合性を保ちながら活用することが可能になります。
具体的には、以下のステップが考えられます。
1.収集 : 散在する各システムからデータを収集する。
2.蓄積 : 各システムから収集した「生データ」をそのまま蓄積する。
3.加工 : 収集した生データをクレンジングし、一貫性と整合性を確保するため加工する。
4.集計 : ビジネスニーズに応じてデータをモデリングし、分析しやすい形に整える。
5.分析 : 可視化ツールでダッシュボードを作成してデータ分析を可能にする。
データ連携のキーの定義
各システム間でデータを連携させるためには、連携キーの定義が重要です。例えば、顧客IDや商談IDなどの共通キーを設定することで、異なるシステム間でのデータ統合が容易になります。これにより、マーケティング活動から営業活動、さらに契約管理に至るまでのデータをシームレスに連携させ、統一されたデータ分析を実現できます。
現場での努力とデータクレンジングの重要性
データ統合のプロセスでは、現場での日々の努力が不可欠です。データの名寄せやクレンジングは地味な作業ですが、これを怠るとデータの品質が低下し、信頼性のある分析結果を得ることができません。データクレンジングは、データ基盤の運用においても継続的に行う必要があります。
KKD経営の現状
データ活用が進まない三つ目の理由として、日本企業の経営スタイル、特に感と経験と度胸(KKD)による経営が挙げられます。KKD経営は長らく日本企業の強みとされてきましたが、データドリブンな時代においてはその限界が明らかになりつつあります。KKD経営の問題点は以下の通りです。
1.属人化: 経営判断が特定の個人に依存するため、組織全体の知識共有が進まない。
2.精度の低下: 感や経験に基づく判断はデータに基づく判断に比べて主観的であり、精度が低くなる。
3.スピード感の欠如: データ分析を活用することで迅速な意思決定が可能ですが、KKD経営ではこれが実現しにくい。
4.再現性の欠如: KKD経営は個人の経験に依存するため、成功事例の再現性が低く、他のメンバーが同様の成功を収めるのが難しい。
データドリブン経営とは、データに基づいて意思決定を行う経営手法です。これにより、意思決定の質とスピードが向上し、競争力が強化されます。データドリブン経営を実現するためには、以下のポイントが重要です。
1.データの収集と整理: 組織全体で一貫したデータ収集と整理を行い、データの質を高める。
2.データ分析のスキル向上: 社員のデータリテラシーを向上させ、データ分析のスキルを養う。
3.データを活用した意思決定: 収集・分析したデータをもとに、戦略的な意思決定を行う。
日本企業がデータ活用に遅れている理由の一つに、海外企業との文化や経営スタイルの違いがあります。特にアメリカ企業はデータドリブン経営を積極的に取り入れており、以下の点で日本企業と異なります。
生産性の違い
「日本の営業は顧客をよく知っている」と言われることがありますが、それはデータに頼らずに自分の目で見える範囲でビジネスをしているためです。アメリカではビジネスのスピード感が速く、一人でカバーするエリアが広いため、データを使わざるを得ません。この違いが生産性の差に現れています。日本は加盟38ヵ国中24位、アメリカは5位という生産性の差があります。
テリトリーの広さとデータ活用
アメリカでは広大なテリトリーをカバーするためにデータが不可欠です。リモートワークが進む中でも、どの顧客にいつ会いに行けば良いかを決めるためにデータが重要です。
データを見る習慣の違い
一方、日本では訪問を基本としているため、顧客の状況は常に把握をしており、データに頼る必要がありませんし、日常的にデータを毎日見るという習慣がありません。米国ではデータを見てビジネスを進める習慣が根付いており、データを見ることが日常的な業務となっています。この習慣の違いがデータ活用の進展に大きな影響を与えています。
データドリブン経営を目指すためのステップ
データドリブン経営を実践している企業では、以下のような取り組みを行っています。
1.データガバナンスの強化: データの質と一貫性を確保するためのルールとプロセスを整備。
2.データ分析の専門チームの設置: データサイエンティストやアナリストを中心とした専門チームを設け、データ分析を推進。
3.Playbookの作成: 成功事例やベストプラクティスを文書化し、組織全体で共有。
データドリブン経営への移行には段階的なアプローチが必要です。まずは小規模なプロジェクトから始め、成功事例を積み重ねることで組織全体に広げていくことが重要です。また、データリテラシーの向上を目的としたトレーニングプログラムの導入も効果的です。
後編では、データ活用をさらに促進するための具体的な施策や、日本企業が直面する組織的な課題について詳しく掘り下げていきます。データドリブン経営を実現するためのステップバイステップのガイドも紹介します。
2024.09.09
2024.08.27
2024.08.27