データサイロの本当の問題は、“数字が見えないこと”ではなく“判断が止まること”だ
MA、CRM、Web解析、広告、営業活動、商談履歴。
マーケティングの現場には、すでに多くのデータがあります。にもかかわらず、事業判断に使える状態になっていない。施策の評価が遅い、営業との接続が弱い、会議では数字を見ているのに判断が進まない。そんな状態に心当たりのある企業は少なくありません。
データが分断されていると、多くの企業は表現します。もちろん、その認識は間違っていません。ただし、CMOやマーケティング担当役員、事業部長の立場で本当に見るべきなのは、データが分断しているという事実そのものではありません。重要なのは、その分断によってどの判断が止まり、どの収益機会が失われているかです。
本記事では、この問題を単なるツールやシステムの課題ではなく、運用構造・データ構造・意思決定構造の課題として捉えます。見るべきなのは、「どのデータが分断しているか」だけではありません。分断によって何が見えなくなり、誰の意思決定が止まっているのか。そこから逆算して考えることが、データサイロ解消の第一歩になります。
データサイロの本質は、データ不足ではなく意思決定の停滞にある
データサイロの議論になると、多くの企業はまず「何をつなぐか」から考えます。顧客データを統合する。全部門で共通のKPIを持つ。理想的な顧客360度ビューをつくる。方向性としては正しく見えますが、最初から全体最適を狙うと、論点は一気に広がります。システム間連携、定義統一、部門間調整、運用ルール整備。プロジェクトは大きくなるのに、現場の判断は何も変わらない。こうして「必要性はわかっているのに進まない」状態が生まれます。
実際、現場で止まっているのは次のような判断です。
・どの施策に予算を寄せるべきか。
・どのリードを営業に優先的に渡すべきか。
・どの顧客群に追加投資すべきか。
・どのKPIでマーケティング成果を評価すべきか。
ここが止まっているなら、問題は単なる可視化不足ではありません。経営判断と事業判断の停滞です。
すべてを一度につなごうとすると、むしろ成果から遠ざかる
データ統合で失敗する企業に共通するのは、「最初から全部つなごう」とすることです。
しかし、事業に効くデータ活用は、必ずしも大規模な統合から始まるわけではありません。むしろ重要なのは、収益に近い判断を前進させるために必要なデータからつなぐことです。
言い換えると、マーケティング責任者が最初にやるべきことは、分断しているデータの棚卸しではありません。
どの判断が止まっているかを特定することです。
・施策投資の判断が止まっているのか。
・営業への引き渡し判断が止まっているのか。
・ターゲット顧客の優先順位づけが止まっているのか。
ここが定まれば、先につなぐべきデータは自然に絞られます。
具体例1:分散データの統合で、レポート業務を「判断材料」に変えたケース
ある支援事例では、Marketo、GA4、スプレッドシートなどにデータが分散しており、手作業では取り出しきれないデータが存在していました。そのため、月次レポートや施策と売上を結びつけた分析はできていても、報告頻度や柔軟性に限界があり、意思決定のスピードが上がらない状態でした。
このケースで最初に行ったのは、すべてのデータを理想形で整えることではありません。MarketoやGA4などの分散データをBigQueryに自動収集・蓄積し、Looker Studioによるレポート自動化を進めることでした。さらに、BigQueryからMarketoや営業システムへデータを書き戻せるようにし、レコメンド生成、高度スコアリング、営業へのアラート通知まで段階的に設計しています。結果として、レポート作業の工数削減だけでなく、有望顧客の特徴把握や営業アプローチリストの自動生成など、営業判断を前に進める活用へ発展しました。
ここで重要なのは、「データを集めること」自体が成果だったわけではないという点です。
価値が出たのは、集めたデータがレポートのためではなく、次の判断とアクションのために使える状態になったことです。
具体例2:初期基盤の先で止まっていた企業が、全社展開できる運用へ進んだケース
別の事例では、すでにMarketoのリード情報やGA4のアクセスログをBigQueryに蓄積・可視化する初期基盤は整っていました。しかし、それだけでは十分ではありませんでした。関係部門が自律的にデータを活用できず、活用の広がりが限定されていたからです。ここで止まっていたのは「データを集めること」ではなく、集めたデータを組織として使いこなすことでした。
このケースでは、ETL基盤を構築し、MarketoやGA4からBigQueryへの日次パイプラインを整備しました。あわせて、Power BIやLooker Studioによるダッシュボードを設計・実装し、営業部門のアカウントプラン策定支援やウェビナー施策の見直しなど、各部門の実務に直結する可視化へとつなげています。その結果、運用負荷の軽減だけでなく、現場での自律的なデータ活用が進み、全社展開に耐える基盤が整いました。
この事例が示しているのは、ダッシュボードの有無が本質ではないということです。
本当に問うべきなのは、誰が、何を、どの会議で、どんな判断のために使うのかが設計されているかどうかです。
具体例3:購買グループが見えないことで、営業とマーケの打ち手が止まっていたケース
データサイロの問題は、ダッシュボードやレポートだけに現れるわけではありません。
BtoBのエンタープライズ営業では、意思決定に複数の部門・役職者が関与します。しかし、多くの企業ではCRMに登録されているのが窓口担当者1名だけで、実際には複数の参加者がいる商談や定例ミーティングの情報が、議事録やカレンダーに散在したままになっています。すると、「誰が意思決定に関与しているのか」「提案後に誰が動いているのか」が見えず、営業とマーケティングの動きは勘頼みになりがちです。
この課題に対しては、Web商談参加者全員のリード情報をSalesforceに自動登録し、役職別のコミュニケーション設計とタッチポイント定義を見直し、ABMダッシュボードで「提案後に誰が動いたか」を追跡できるようにしました。結果として、窓口担当者という「点」でしか見えなかったアカウントが、購買グループという「面」で見えるようになり、営業アクションの精度とタイミングを改善できるようになっています。
この事例で変わったのも、データ量そのものではありません。
変わったのは、営業とマーケティングが、誰に・何を・どの順番で働きかけるべきかを判断できるようになったことです。つまり、データサイロの解消とは、情報の集約ではなく、組織の判断精度を上げることだと言えます。
CMOや事業責任者が最初にやるべき3つのこと
ここまでを踏まえると、最初にやるべきことはかなり明確です。
第一に、止まっている判断を特定することです。
施策投資判断なのか、営業引き渡し判断なのか、ターゲット選定判断なのか。まずはここを言語化しない限り、データ統合の優先順位は定まりません。
第二に、それが活用不足なのか、構造不足なのかを見極めることです。
「Marketoを活用できていない」「データがバラバラ」といった言葉は、しばしば症状です。運用設計の問題なのか、データ接続の問題なのか、営業連携の問題なのか、評価指標の問題なのか。ここを切り分けないまま打ち手に入ると、対症療法になりやすくなります。
第三に、収益に近い判断から支えることです。
最初から顧客360度ビューを完璧に目指す必要はありません。
・どの施策が商談を生んでいるか。
・どのリードを優先して営業に渡すべきか。
・どのアカウントで購買グループの動きが起きているか。
こうした問いに答えられる状態を先につくることの方が、経営インパクトは大きいはずです。
まとめ:データサイロを解消する第一歩は、「止まっている判断」を見つけること
データサイロを解消するには、まず大きな構想図を描くことから始める必要はありません。
本当に必要なのは、止まっている判断を見つけることです。
・どの判断が止まっているのか。
・それは活用不足なのか、構造不足なのか。
・その判断は収益にどれだけ近いのか。
この順番で整理すれば、先につなぐべきデータは自然に絞られます。
そして、その進め方こそが、現場で使われるデータ活用を生み、最終的に経営に効くマーケティング基盤へとつながります。
データサイロの問題を、可視化だけで終わらせないために。
パワー・インタラクティブは、MA活用、データ統合、KPI設計、ダッシュボード構築を一体で捉え、マーケティングの意思決定を前進させる支援を行っています。
・「自社の課題は活用不足なのか、それとも構造不足なのかを整理したい」
・「収益に近い判断から、どのデータを先につなぐべきか見極めたい」
そんな課題をお持ちの方は、ぜひご相談ください。
取締役/常務執⾏役員
遠藤 美加
マーケティング戦略策定
関⻄学院⼤学経済学部卒業。住友ビジネスコンサルティング株式会社⼊社。マーケティング分野のリサーチおよびコンサルティング業務を経て、⽴命館⼤学(学校法⼈)に転じ、⼤学の⻑期経営計画づくりや産学連携事業を担当。その後、⼤阪市のソフト産業プラザにてベンチャーコーディネーター業務に従事。2000年4⽉、パワー・インタラクティブ⼊社。同年6⽉取締役、2003年常務執⾏役員に就任。全社の事業戦略を統括する。



