グローバルABMと販社連携の未来
本社と販社は、顧客データでつながる時代へ
これまで本シリーズでは、製造業の海外マーケティングをめぐる変化について考察してきました。
海外販社任せでは見えにくい顧客がいること。
AEO時代には、海外顧客が営業に会う前にAIやWebで情報収集を進めること。
海外向けコンテンツは、翻訳だけではなく、顧客の問いに答える情報設計が必要であること。
そして、AI時代の海外市場開拓では、問い合わせを待つのではなく、狙うべきターゲット企業を定義することが重要になること。
これらを通じて見えてきたのは、「海外販社をどう管理するか」ではなく、「本社と販社がどう連携するか」というテーマです。
多くの日本の製造業は、長年にわたり販社や代理店とともに海外市場を開拓してきました。現地市場を知る販社の存在は、今後も海外事業において重要であり続けます。
しかし、AEOやAI、企業データ、MA・CRM、ダッシュボードの活用が進むなかで、本社と販社の関係は新しい形へと変わりつつあります。これから求められるのは、販社任せでも、本社による一方的な管理でもありません。
本社と販社が、同じ顧客データを見ながら海外市場を開拓することです。
本稿では、シリーズの最終回として、グローバルABMと販社連携の未来について考察します。
なぜ販社モデルは今も重要なのか
まず確認しておきたいのは、販社モデルそのものが問題なのではないということです。
むしろ、多くの日本の製造業が海外市場で成長してきた背景には、優れた販社や代理店の存在があります。販社は、本社だけでは持ちにくい重要な強みを持っています。
現地市場を知っている。
顧客との関係を持っている。
商習慣や意思決定プロセスを理解している。
現地語で提案活動ができる。
顧客の細かな反応や競合状況を把握している。
商談を前に進める実行力を持っている。
これらは、本社がデジタルマーケティングを強化したからといって、簡単に代替できるものではありません。
一方で、従来の販社モデルには課題もあります。
本社から海外市場の変化が見えにくい。
顧客情報が販社ごとに分散している。
国や地域ごとに営業活動が属人化しやすい。
どの企業がどのテーマに関心を持っているのか把握しにくい。
本社が持つ製品・技術情報と、販社が持つ顧客情報がつながりにくい。
つまり、課題は販社の存在そのものではありません。
本社と販社の間で、顧客情報や市場情報が分断されていることです。
これから求められるのは、販社を置き換えることではなく、販社と本社が同じ顧客データを活用できる状態をつくることです。
ABMが変える、海外営業とマーケティングの関係
前回の記事では、AI時代の海外市場開拓において、「問い合わせを待つ」だけではなく、「狙う企業を決める」ことが重要になると解説しました。
ここで重要になるのが、ABM(Account Based Marketing)の考え方です。
ABMとは、先にターゲット企業を定義し、その企業との関係構築を進めるアプローチです。従来のように、問い合わせが来たリードに順番に対応するのではなく、事業上重要な企業をあらかじめ特定し、その企業に対してマーケティングと営業を連携させてアプローチしていきます。
たとえば、海外市場では次のような条件でターゲット企業を定義できます。
東南アジアに製造拠点を持つ企業。
従業員500名以上の製造業。
設備投資が活発な企業。
自社ソリューションとの親和性が高い業界。
既存顧客と類似した課題を持つ企業。
現地販社がアプローチ可能な地域に拠点を持つ企業。
従来は、こうした有望企業の発掘を営業担当者や販社の経験、人脈、勘に頼ることが少なくありませんでした。もちろん、現地を知る販社の経験は今後も重要です。
しかし今後は、企業データを活用しながら、本社がターゲット市場を分析し、優先的にアプローチすべき企業を特定できるようになります。
ABMは、海外営業とマーケティングの関係を変えます。
マーケティングは、リード数を増やすだけの役割ではなくなります。
営業は、反応があったリードを追うだけの役割ではなくなります。
本社は、製品情報を提供するだけの役割ではなくなります。
販社は、単独で顧客を開拓するだけの役割ではなくなります。
本社がターゲット企業を定義し、マーケティングが接点をつくり、販社が商談化を進める。
この連携が、グローバルABMの基本になります。
企業データが海外市場を可視化する
海外市場において、「どの企業が有望なのか」を判断することは簡単ではありません。
対象国が増えれば、候補企業の数も膨大になります。業界分類、企業規模、拠点情報、成長性、信用情報、グループ会社構造なども国によって把握しにくくなります。
そのため近年では、企業情報データベースを活用し、データに基づいてターゲット企業を選定する取り組みが重要になっています。
企業データとしては、たとえば次のような情報が活用できます。
業種。
企業規模。
売上規模。
従業員数。
拠点情報。
成長性。
信用情報。
親会社・グループ会社。
海外展開状況。
既存顧客との類似性。
こうした情報をもとにターゲット企業を抽出することで、従来の勘や経験だけに依存しない海外市場開拓が可能になります。
さらに重要なのは、企業データとマーケティングデータを組み合わせることです。
たとえば、ある企業が自社サイトの特定テーマのページを閲覧している。技術資料をダウンロードしている。ウェビナーに参加している。複数名が同じコンテンツに反応している。こうした行動データがあったとしても、その企業の規模や業種、成長性が分からなければ、優先度を判断しにくいままです。
一方で、企業データと顧客行動データを組み合わせると、次のような判断が可能になります。
規模が大きく、成長性も高く、かつ特定テーマに反応している企業。
既存顧客と似た属性を持ち、複数の関係者が情報収集している企業。
販社の対応地域内にあり、導入可能性の高い企業。
すぐに商談化しなくても、中長期で育成すべき企業。
このように、企業データは海外市場を可視化するための土台になります。
マーケティングデータは、その企業が今どのテーマに関心を持っているかを示す兆候になります。
両者を組み合わせることで、海外ABMの精度は大きく高まります。
本社と販社の役割を明確にする
これからの海外市場開拓では、本社と販社の役割分担を再設計する必要があります。
基本的な連携モデルの一つとして、次のような流れが考えられます。
本社が企業データをもとにターゲット企業を選定する。
AEOや海外向けコンテンツを通じて、ターゲット企業とのデジタル接点を創出する。
Webサイト、MA、CRMを通じて顧客行動データを蓄積する。
企業単位で関心度や優先度を可視化する。
有望企業の情報を販社へ共有する。
販社が現地顧客との関係性を活かし、提案活動と商談化を進める。
商談結果や顧客反応を本社へフィードバックする。
本社がターゲットリスト、コンテンツ、施策を改善する。
この流れができると、本社と販社はそれぞれの得意領域に集中できます。
本社は、市場の可視化、ターゲット企業の特定、コンテンツ発信、データ分析、KPI管理を担う。
販社は、顧客との関係構築、現地での提案活動、商談推進、受注活動を担う。
といった分担です。ただし、実際の役割分担は地域、商流、販社の体制によって異なります。重要なのは、本社と販社の担当範囲をあらかじめ明確にし、ターゲット企業の情報と営業結果を相互に共有できる状態をつくることです。
どの企業なのか。
なぜ優先すべきなのか。
どのテーマに関心を示しているのか。
どのコンテンツを見ているのか。
どの関係者が接点を持っているのか。
どのような切り口で提案すべきなのか。
こうした情報とともに販社へ共有することで、営業活動の質は大きく変わります。
Global MOpsが実現する世界
この仕組みを実現するためには、Webサイト、会員サイト、MA、CRM、企業データ、ダッシュボード、販社からのフィードバックを統合的に扱う必要があります。
重要なのは、ツールそのものではありません。
重要なのは、顧客データを活用して継続的に改善できる仕組みです。
Global MOpsとは、海外マーケティングを属人的な施策の積み重ねではなく、データとプロセスによって継続的に改善できる運用基盤として捉える考え方です。
たとえば、次のような情報を本社が把握できるようになります。
どの国からの反応が増えているのか。
どの業界の関心が高いのか。
どの企業が商談化しやすいのか。
どのコンテンツがターゲット企業との接点を生んでいるのか。
どの販社が成果を上げているのか。
どの段階で商談化が止まっているのか。
どのテーマを次に強化すべきなのか。
こうした情報が可視化されることで、本社はより精度の高い意思決定を行えるようになります。
さらに、販社にとってもメリットがあります。自社だけで新規企業を探すのではなく、本社から有望企業の情報や関心テーマを受け取ることができます。営業活動の優先順位が明確になり、提案の切り口も見えやすくなります。
Global MOpsは、本社の管理強化のためだけにあるのではありません。
販社が成果を出しやすい環境をつくるための仕組みでもあります。
AEO時代に求められる新しい競争力
AEO時代になると、顧客は営業担当者に会う前に、AIやデジタルチャネルを通じて情報収集を行います。
そのため、単に製品情報を発信するだけでは十分ではありません。顧客がどのような課題を抱え、どのような情報を探し、どの企業を候補として比較しているのかを理解する必要があります。
これからの海外市場開拓では、次のような一連の流れが重要になります。
AEOによって、顧客の問いに答える情報を整備する。
デジタル接点を通じて、海外顧客の関心を可視化する。
企業データを活用して、ターゲット企業を定義する。
Global MOpsによって、Web・MA・CRM・販社連携を一体で運用する。
販社が、その情報を活用して商談化を進める。
つまり、AEO、企業データ、Global MOps、販社連携は、それぞれ別々の施策ではありません。これからの海外市場開拓を支える一連の仕組みです。
競争力の源泉も変わっていきます。
製品力だけではなく、顧客に見つけられる力。
技術力だけではなく、顧客の問いに答える力。
販社ネットワークだけではなく、本社と販社がデータで連携する力。
営業力だけではなく、ターゲット企業との関係を継続的に育てる力。
このような力を持つ企業が、AEO時代の海外市場開拓で優位に立つのではないでしょうか。
海外販社任せの時代から、本社と販社がデータでつながる時代へ
長年にわたり、多くの製造業は販社ネットワークを活用して海外市場を開拓してきました。その強みは今後も変わりません。現地市場を知り、顧客と関係を持ち、商談を前に進める販社の存在は、海外事業において重要であり続けます。
しかし、AEO時代においては、本社もまた市場を理解し、顧客を理解し、データを活用する必要があります。
海外販社任せの時代から、本社と販社が顧客データでつながる時代へ。
この転換は、販社を管理するためではありません。
本社と販社が、同じ顧客を見て、同じ市場を理解し、それぞれの強みを活かして海外市場を開拓するためです。
グローバルABMは、狙うべき企業を明確にします。
Global MOpsは、その企業との接点を可視化し、継続的に改善する仕組みをつくります。
販社連携は、そのデータを商談と受注につなげます。
この3つをつなぐことが、これからの製造業に求められる海外マーケティングの新しい形ではないでしょうか。
海外市場開拓を、データで連携する仕組みへ
パワー・インタラクティブでは、製造業の海外マーケティングに向けて、AEO対応、海外向けコンテンツ設計、企業データを活用したターゲット企業選定、MA・CRM活用、販社連携を含めたGlobal MOpsの仕組みづくりを支援しています。
海外販社との連携を強化したい。
海外市場で狙うべき企業を明確にしたい。
海外向けWebサイトやコンテンツを商談につなげたい。
企業データと顧客行動データを組み合わせて、グローバルABMに取り組みたい。
本社と販社が同じ顧客データを見ながら、海外市場を開拓する仕組みをつくりたい。
そのような課題をお持ちの方は、まずは海外顧客データ、ターゲット企業リスト、販社連携プロセスの棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。
執行役員
友田 彰宣
マーケティング戦略策定
大規模Web開発案件のプロジェクトマネージャーや、コンサルタントとして事業方針に即したデジタルマーケティング戦略設計や組織横断の運用体制づくりを中心に従事。最近はプラットフォーム活用に向けたデータ連携案件や個別開発にも多数携わる。
シリーズ記事
第1回:海外販社任せでは見えない顧客がいる
第2回:AEO時代、海外顧客は営業に会う前にAIに相談する
第3回:海外向けコンテンツは翻訳だけでは足りない
第4回:AI時代の海外ターゲット企業開拓
第5回:グローバルABMと販社連携の未来



