コラム

付録:海外マーケティングのMA・CRMはどう選ぶべきか

執筆:執行役員 友田 彰宣

ツール選定の前に考えるべき、Global MOpsの設計思想

海外マーケティングを強化しようとするとき、多くの企業が最初に検討するのがマーケティングテクノロジーの導入です。

MAを導入する。
CRMを整備する。
企業データベースを活用する。
ダッシュボードを作成する。
海外販社とリード情報を共有する。

こうした取り組みは、海外市場を可視化し、商談創出につなげるうえで重要です。

しかし、ここで注意したいことがあります。

それは、ツールを選ぶ前に、まず「どのような海外マーケティングの運用を実現したいのか」を明確にする必要があるということです。

MAを導入すればリードが増えるわけではありません。
CRMを導入すれば販社連携が進むわけでもありません。
企業データを購入すればターゲット企業開拓が成功するわけでもありません。

重要なのは、データを活用し、ターゲット企業の選定からリード創出、販社連携、商談化、受注の可視化までを一気通貫で設計することです。

本稿では、海外マーケティングにおけるMA・CRMの選び方について、単なるツール比較ではなく、Global MOpsの観点から整理します。

※本稿の製品名称と機能に関する記述は、2026年7月時点の各社公開情報をもとにしています。

MAやCRMは「導入するもの」ではなく「つなぐもの」

海外マーケティングにおいて、MAやCRMは非常に重要な基盤です。

MAは、Webサイト、フォーム、メール、ウェビナー、資料ダウンロードなどの顧客接点を管理し、見込み顧客の関心を可視化するために活用されます。CRMは、顧客情報、商談情報、営業活動、受注状況を管理し、営業プロセスを可視化するために活用されます。

しかし、MAとCRMをそれぞれ個別に導入しても、海外事業の「見えない」はなくなりません。

たとえば、MAで取得したリード情報や行動データがCRMの取引先、担当者、商談情報とつながっていなければ、販社によるフォロー、商談化、受注までを確認できません。

一方、CRM上の顧客情報や商談情報に、Web閲覧、資料ダウンロード、ウェビナー参加などのマーケティングデータが連携されていなければ、商談前の関心や検討状況を把握しにくくなります。

つまり、MAとCRMは単体で考えるのではなく、海外市場開拓のプロセス全体の中で「何をつなぐためのツールなのか」を考える必要があります。

海外マーケティングにおいて重要なのは、次の流れです。

企業データをもとにターゲット企業を選定する。
AEOやコンテンツを通じてデジタル接点を創出する。
MAでリードや行動データを蓄積する。
CRMで商談や営業活動と接続する。
販社と有望企業情報を共有する。
商談化・受注状況を可視化する。
結果をもとにターゲット、コンテンツ、施策を改善する。

この一連の流れを支えるために、MAやCRMを選定する必要があります。

MA選定で見るべきポイント

海外マーケティングにおけるMA選定では、単に機能の多さだけで判断すべきではありません。

重要なのは、自社の海外マーケティングの成熟度、対象国、販社連携のあり方、CRMとの接続、運用体制に合っているかどうかです。

MA選定で見るべき主なポイントは、次の通りです。

第一に、リード獲得・育成の設計がしやすいかです。
海外向けWebサイト、フォーム、資料ダウンロード、ウェビナー、メール配信などを通じて、見込み顧客との接点をどのように作れるかが重要になります。

第二に、CRMとの連携がしやすいかです。
MAで獲得したリードが、どのようにCRMへ渡り、営業や販社のフォローにつながるのか。ここが設計できていないと、リードは蓄積されても商談化につながりません。

第三に、グローバル運用に耐えられるかです。
複数国、複数言語、複数ブランド、複数販社を想定する場合、権限設計、データ管理、配信ルール、同意管理、地域別の運用ルールが重要になります。

第四に、運用負荷が現実的かです。
高機能なMAほど、設計・運用・改善には専門知識が必要になります。自社の体制で運用するのか、外部支援を活用するのかも含めて検討する必要があります。

第五に、ABMや企業単位の管理に対応できるかです。
BtoB製造業では、個人リードだけでなく、企業単位で関心度を把握することが重要です。ターゲット企業リスト、企業データ、行動データをどう結びつけるかがポイントになります。

海外運用ではデータ管理と法令対応も確認する

海外マーケティングでは、機能だけでなく、個人データをどこで、誰が、どのように扱うかを確認する必要があります。

対象国や地域によって、Cookie、メール配信、同意取得、個人データの国外移転などに関する要件が異なります。選定時には、少なくとも次の点を確認します。

・データの保管地域
・国外へのデータ移転条件
・本社、海外拠点、販社ごとの閲覧・編集権限
・同意情報と配信停止情報の管理方法
・データの保持期間と削除方法
・契約終了時のデータ返却・削除条件
・委託先や再委託先を含むデータ処理体制

法令への適合性は、ツールを導入するだけで担保されるものではありません。対象国の法令、契約内容、社内の運用ルールを含めて確認する必要があります。

Marketo、HubSpot、Account Engagementの考え方

BtoB向けのマーケティングオートメーションでは、Marketo、HubSpot、Salesforce Account Engagementなどがよく比較対象になります。

それぞれに特徴があり、どれが優れているというよりも、目的と運用体制によって向き不向きがあります。

Marketo(Adobe Marketo Engage)は、複雑なリードナーチャリング、スコアリング、セグメント管理、BtoBマーケティングの高度な運用に強みがあります。複数製品、複数部門、複雑な購買プロセスを持つ企業に適しています。一方で、自社の運用体制や必要な専門性も含めて判断する必要があります。

HubSpot(HubSpot Marketing Hub)は、フォーム、メール、リード獲得、マーケティングオートメーションなどを提供します。HubSpotのSmart CRM、Sales Hub、Content Hubなどと同じ顧客プラットフォーム上で連携できる点が特徴です。立ち上げやすさ、使いやすさ、コンテンツマーケティングとの親和性を重視する企業に向いています。ただし、利用できる機能は製品と契約プランによって異なるため、必要な機能がどの製品・プランに含まれるかを確認する必要があります。

Account Engagement(Marketing Cloud Account Engagement)は、Salesforce CRMとの連携を前提としたBtoBマーケティングに適しています。すでにSalesforceを営業基盤として活用している企業にとっては、営業連携や商談管理との接続がしやすい選択肢です。

選定のポイントは、「どのツールが有名か」ではありません。
自社が実現したい海外マーケティングのプロセスに、どのツールが最も適しているかです。

CRM選定で見るべきポイント

CRMは、海外マーケティングと販社連携をつなぐ重要な基盤です。

海外市場開拓においてCRMが担うべき役割は、単なる顧客管理ではありません。リードがどの企業に属しているのか、どの販社が担当するのか、どの商談に進んだのか、どのステージで止まっているのか、受注につながったのかを可視化することです。

CRM選定で見るべきポイントは、次の通りです。

第一に、営業プロセスを設計できるかです。
リード、取引先、担当者、商談、活動履歴、受注情報をどのように管理するか。海外販社が関わる場合は、本社と販社の役割分担も含めて設計する必要があります。

第二に、MAとの連携がしやすいかです。
MAで獲得したリードや行動データが、CRM上でどのように営業活動や商談とつながるのかが重要です。

第三に、海外販社との情報共有に対応できるかです。
販社がどこまでCRMを利用するのか。本社だけが利用するのか。販社にはダッシュボードやリードリストだけを共有するのか。権限設計やデータ共有範囲を慎重に決める必要があります。

第四に、受注・売上まで可視化できるかです。
海外マーケティングの成果を評価するには、リード数だけでなく、商談化、受注、売上まで追えることが重要です。

第五に、運用の柔軟性と定着性です。
CRMは導入して終わりではありません。営業や販社が継続的に使える設計でなければ、データは蓄積されず、可視化も進みません。

営業管理を中心に選ぶか、業務基盤全体との統合を重視するか

CRMを選定する際には、営業・マーケティング管理を中心に考えるのか、販売、在庫、会計、購買などを含む業務基盤全体との連携を重視するのかを整理する必要があります。

例としてSalesforceやOdooなどが挙げられます。

Salesforceは、営業管理、商談管理、権限設計、レポート、外部ツール連携に強みがあり、グローバルでの営業基盤として多くの企業に採用されています。Account Engagementや各種BI、データ基盤との連携も視野に入れやすく、複雑な営業プロセスや多拠点展開に対応しやすい点が特徴です。

一方で、柔軟性が高い分、設計と運用ルールが曖昧なまま導入すると、入力負荷が増えたり、データ品質がばらついたりするリスクもあります。

Odooは、CRMだけでなく、販売、在庫、会計、購買などを含む統合業務アプリケーションとして活用できる点が特徴です。比較的柔軟に業務プロセスと接続しやすく、海外拠点や販社との業務連携を含めて検討する場合に選択肢になります。

Salesforceが高度な営業・マーケティング連携基盤として強みを持つのに対し、Odooは業務全体との統合や拡張性を重視する場合に検討しやすいツールと言えます。

ただし、CRMもMAと同じく、ツール名だけで選ぶべきではありません。重要なのは、海外市場開拓のプロセスに対して、どこまでCRMを使うのかを明確にすることです。

企業データは、ターゲット選定の起点になる

海外マーケティングでは、MAやCRMだけでなく、企業データの活用も重要になります。

なぜなら、海外市場には膨大な企業が存在し、その中から狙うべき企業を見つける必要があるからです。

どの業界を狙うのか。
どの規模の企業を優先するのか。
どの国や地域に注力するのか。
既存顧客と似た企業はどこか。
成長性や信用情報はどうか。
販社がアプローチ可能な企業か。

こうした判断には、企業情報データベースの活用が有効です。

たとえば、Creditsafeなどの企業データを活用すれば、海外企業の基本属性、企業規模、信用情報、グループ構造などを把握しやすくなります。これにより、営業担当者や販社の経験だけに依存せず、データに基づいてターゲット企業を選定できます。

重要なのは、企業データをリストとして持つだけではありません。
企業データを、MAやCRM、顧客行動データと結びつけることです。

企業属性と行動データがつながることで、どの企業を優先すべきか、どの販社に共有すべきか、どのテーマでアプローチすべきかが見えやすくなります。

BI・ダッシュボードは意思決定のためにある

海外マーケティングの運用が進むと、さまざまなデータが蓄積されます。

Webサイトのアクセスデータ。
MAのリードデータ。
メールやウェビナーの反応データ。
CRMの商談データ。
企業データ。
販社のフォロー状況。
受注情報。

これらを個別のツール内で見ているだけでは、全体像は見えません。

そこで重要になるのが、BIツールやダッシュボードです。

ダッシュボードは、単に数字を並べるためのものではありません。
本社が海外市場を理解し、販社と共通認識を持ち、次の打ち手を判断するためのものです。

たとえば、次のような問いに答えられる必要があります。

どの国からの反応が増えているのか。
どの業界の企業が関心を示しているのか。
どのターゲット企業が商談化に近づいているのか。
どのコンテンツがリード創出に貢献しているのか。
どの販社が有望企業をフォローしているのか。
どの施策が受注につながっているのか。

BI・ダッシュボードは、Global MOpsの運用を支える可視化基盤です。

ツール選定は「個別最適」ではなく「一気通貫」で考える

海外マーケティングのツール選定では、つい個別最適で考えがちです。

MAをどうするか。
CRMをどうするか。
企業データをどう使うか。
BIツールをどうするか。
販社にはどこまで共有するか。

もちろん、それぞれのツール選定は重要です。
しかし、もっと重要なのは、それらをどのようにつなぐかです。

たとえば、MAだけを高度化しても、CRMや販社連携につながらなければ、リードは商談化しません。CRMだけを整備しても、商談前の顧客行動が見えなければ、海外顧客の初期検討は把握できません。企業データだけを導入しても、顧客行動データと結びつかなければ、優先順位判断には活用しにくくなります。

Global MOpsの視点では、マーケティングテクノロジーを次のように一気通貫で設計します。

市場理解。
ターゲット企業選定。
リード創出。
販社連携。
商談化。
受注可視化。
改善。

ツール選定とは、単に製品を比較することではありません。
海外事業の「見えない」をなくすための運用基盤を設計することです。

選定の順番を間違えない

MAやCRMの選定でよくある失敗は、ツール比較から始めてしまうことです。

機能一覧を比較する。
価格を比較する。
有名なツールを選ぶ。
他社が使っているから導入する。

もちろん、機能や費用は重要です。しかし、それだけでは海外マーケティングの成果にはつながりません。

先に考えるべきは、次の問いです。

どの国・市場を優先するのか。
どの企業を狙うのか。
どのようなリードを創出したいのか。
本社と販社はどのように連携するのか。
どのデータをCRMに渡すのか。
何を商談化の条件とするのか。
受注までどのように可視化するのか。
どの指標を見て改善するのか。

これらを整理したうえで、MA、CRM、企業データ、BIの選定に入るべきです。

つまり、選定の順番は、ツールからではなく、海外市場開拓のプロセスからです。

海外マーケティングテクノロジー選定の基本視点

海外マーケティングにおけるMA・CRM選定では、次の5つの視点が重要になります。

第一に、戦略との整合性です。
どの市場を狙い、どの企業をターゲットにし、どのように商談化するのか。ツールはその戦略を実現するために選ぶ必要があります。

第二に、データ連携です。
企業データ、Web行動データ、MA、CRM、販社情報、受注情報がどのようにつながるのかを確認する必要があります。

第三に、販社連携です。
本社だけで完結するのか、販社も利用するのか、販社にはどの情報を共有するのかを設計する必要があります。

第四に、運用体制です。
誰が設定し、誰が配信し、誰がリードを確認し、誰がフォローし、誰が改善するのか。ツールを動かす体制がなければ、成果にはつながりません。

第五に、可視化と改善です。
リード数だけでなく、商談化、受注、販社フォロー、ターゲット企業の進捗まで可視化できるかが重要です。

この5つの視点を持つことで、ツール選定は単なる比較表ではなく、海外事業を前に進めるための設計になります。

海外事業の「見えない」をなくすために

海外マーケティングにおけるMA・CRM選定は、単なるシステム導入ではありません。

海外市場をどう理解するか。
狙うべき企業をどう選ぶか。
顧客との接点をどう作るか。
販社とどう連携するか。
商談化と受注をどう可視化するか。
改善をどう回すか。

これらを一気通貫で考えることが重要です。

個別のツール導入にとどまると、海外事業の「見えない」は残ったままになります。

リードは取れているが、商談化しているか分からない。
販社に渡した後の状況が見えない。
どの国や業界に反応があるのか分からない。
どの施策が受注につながっているのか分からない。
本社と販社が同じ顧客データを見ていない。

こうした状態をなくすためには、MA、CRM、企業データ、BIを個別に考えるのではなく、Global MOpsの運用基盤として設計する必要があります。

マーケティングテクノロジー選定の目的は、ツールを導入することではありません。
海外市場開拓を、見える化し、つなぎ、改善できる状態にすることです。

Global MOpsの第一歩は、現状のデータとプロセスの棚卸しから

パワー・インタラクティブでは、製造業の海外マーケティングに向けて、MA・CRM選定、企業データ活用、AEO対応、販社連携、ダッシュボード構築を含めたGlobal MOpsの仕組みづくりを支援しています。

海外向けにMAを導入したいが、どのツールを選ぶべきか分からない。
CRMはあるが、海外販社との連携や商談化管理に活用できていない。
企業データを使ってターゲット企業を選定したい。
MA、CRM、BIをつなぎ、海外マーケティングの成果を可視化したい。
リード創出から受注までを一気通貫で設計したい。

そのような課題をお持ちの方は、まずは現状のデータ、ツール、業務プロセス、販社連携の棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。

友田 彰宣

執行役員

友田 彰宣

マーケティング戦略策定

大規模Web開発案件のプロジェクトマネージャーや、コンサルタントとして事業方針に即したデジタルマーケティング戦略設計や組織横断の運用体制づくりを中心に従事。最近はプラットフォーム活用に向けたデータ連携案件や個別開発にも多数携わる。

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