展示会ブースのキャッチコピーは「流行語」ではなく「来場者の課題」から考える
ODEX展で感じた“AI推し”の中で埋もれない伝え方
今回、久しぶりに本格的に展示会へ出展する中で、改めて感じたことがあります。
それは、展示会場における「AI」という言葉の多さです。
ブースのパネル、キャッチコピー、デモ、配布資料。
会場のあちこちで、AIを前面に打ち出した訴求が見られました。
もちろん、AIは今もっとも関心を集めやすいテーマの一つです。
展示会場でも、「AI」という言葉には来場者の目を引く力があります。
実際、営業・マーケティング領域の展示会でも、「営業・マーケティングの現場でいま使うべきAIがわかる」といった展示会テーマが掲げられるなど、AIを実務導入の文脈で捉える動きは広がっています。
しかし、どのブースもAIを掲げている環境では、単に「AIで〇〇を支援します」と打ち出すだけでは、かえって埋もれてしまいます。
来場者から見ると、どのブースも同じように見えてしまう。
「AIを使っていること」はわかっても、自社のどんな課題に関係があるのか、何がどう変わるのかまでは伝わりにくい。
今回の展示会で改めて感じたのは、ブースのキャッチコピーは流行語を掲げるものではなく、来場者に「これは自分の課題に関係がある」と感じてもらうための入口だということです。
展示会ブースは「説明する場所」ではなく「立ち止まる理由をつくる場所」
展示会場では、来場者が一つひとつのブースをじっくり見てくれるわけではありません。
通路を歩きながら、数秒で判断しています。
「自分に関係がありそうか」
「少し話を聞く価値がありそうか」
「今の課題に近いか」
その数秒で何を伝えるか。
これが、展示会ブースのコンセプトやキャッチコピーを考えるうえで、もっとも重要な視点です。
ブースのキャッチは、会社が言いたいことを掲げるための言葉ではありません。
来場者に「これは自分の課題だ」と感じてもらい、足を止めてもらうための入口です。
だからこそ、キャッチコピーを考えるときは、最初から「AI」「DX」「データ活用」といった言葉をどう目立たせるかから考えるべきではありません。
まず考えるべきなのは、来場者の頭の中にある困りごとです。
「AI」「DX」は目を引くが、それだけでは差別化しにくい
ここ半年のマーケティング・営業・DX系展示会の訴求を見ても、「AI」「DX」「自動化」「データ活用」といった言葉は多く使われています。
たとえば、マーケティングWeekは、マーケターやWebディレクター、宣伝・広報、営業推進とマーケティング支援サービスのプロが出会う場として展開されています。
営業・マーケDXPOも、営業・マーケティングの売上アップ、販売促進、DX推進のためのITソリューション総合展示会と位置づけられています。
こうした展示会では、来場者側も「AI」「DX」「自動化」「データ活用」といったキーワードに関心を持って来場しています。
そのため、これらの言葉を使うこと自体は間違いではありません。
ただし、多くの企業が同じ言葉を使うほど、その言葉だけでは違いが伝わりにくくなります。
「AIで業務効率化」
「DXを支援」
「データ活用を推進」
「営業活動を高度化」
これらはどれも重要なテーマです。
しかし、展示会場の通路で一瞬だけ目に入ったとき、来場者にとっては抽象的に感じられることがあります。
「結局、何ができるのか」
「自社のどの課題に関係するのか」
「他のブースと何が違うのか」
ここまで伝わらなければ、足を止めてもらう理由にはなりません。
伝わりやすい訴求は「課題」か「成果」まで踏み込んでいる
展示会で伝わりやすいキャッチには、共通点があります。
それは、「AIを使っている」「DXを支援する」といった技術起点の表現だけで終わらず、来場者の課題や得られる成果まで踏み込んでいることです。
たとえば、請求書処理の領域では、AI-OCRで受領した請求書をデータ化し、仕訳・振込・消込データの自動生成によって手入力を削減する機能が訴求されています。
この場合、来場者が受け取る価値は「AIを使っていること」そのものではありません。
「手入力が減る」
「確認作業が減る」
「経理業務が早くなる」
「ミスが減る」
こうした変化がイメージできるから、立ち止まる理由になります。
つまり、展示会ブースで重要なのは、技術を見せることではなく、技術によって何が変わるのかを見せることです。
AIを打ち出すなら、
「AIで何ができるか」ではなく、
「AIによって来場者のどんな困りごとが、どう変わるのか」まで言葉にする必要があります。
技術起点・機能起点・課題起点・成果起点で整理する
ブースのキャッチコピーを考えるときは、訴求の型を分けて考えると整理しやすくなります。
技術起点
技術起点とは、「AI」「DX」「生成AI」「RAG」「自動化」など、技術やトレンドワードを前面に出す訴求です。
たとえば、
「AIで業務効率化」
「生成AIで営業活動を高度化」
「DXを推進するソリューション」
といった表現です。
技術起点の訴求は、来場者の目を引くフックになります。
特にAIのように注目度が高いテーマでは、入口として有効です。
ただし、技術名だけでは「自分に関係がある」と感じてもらいにくい場合があります。
機能起点
機能起点とは、ツールやサービスでできることを前面に出す訴求です。
たとえば、
「MA/CRM連携」
「自動レポート」
「名刺情報の自動登録」
「問い合わせ管理」
といった表現です。
機能が明確なので、すでに課題意識がある来場者には伝わりやすいです。
一方で、その機能が必要だと感じていない来場者には、少し遠く感じられることもあります。
課題起点
課題起点とは、来場者が抱えている困りごとから入る訴求です。
たとえば、
「展示会リード、名刺の山で終わっていませんか?」
「営業が追うべき見込み客がわからない」
「フォロー漏れが起きていませんか?」
「施策の成果が見えない状態から抜け出す」
といった表現です。
これは展示会場では非常に強い訴求です。
来場者が「これは自分のことだ」と感じやすいからです。
成果起点
成果起点とは、導入後に得られる変化を前面に出す訴求です。
たとえば、
「手入力ゼロ」
「5秒でデータ化」
「商談化率を高める」
「対応漏れを防ぐ」
「営業が今日追うべきリードがわかる」
といった表現です。
成果起点の訴求は、短時間でメリットが伝わるため、展示会向きです。
特に数字や具体的な変化が入ると、来場者は効果を想像しやすくなります。
技術名を、来場者の課題や成果に翻訳する
展示会ブースのキャッチコピーで大切なのは、技術名をそのまま掲げることではありません。
技術名を、来場者の課題や成果に翻訳することです。
たとえば、次のように言い換えることができます。
ここで重要なのは、自社が何を提供しているかではなく、来場者が何に困っていて、それがどう変わるのかを先に考えることです。
「AIを使っています」ではなく、
「何が楽になるのか」
「どの業務が変わるのか」
「どの成果につながるのか」
ここまで言葉にできると、展示会場での伝わり方は大きく変わります。
良いキャッチは「サービス名」ではなく「課題の入口」になっている
展示会では、サービス名や機能名だけを掲げても、来場者がすぐに意味を理解できるとは限りません。
もちろん、すでにその領域に強い課題意識を持っている来場者であれば、サービス名や機能名だけでも反応するかもしれません。
しかし、多くの来場者は、通路を歩きながら複数のブースを流し見しています。
その状態で立ち止まってもらうには、サービス名よりも先に、課題の入口を見せる必要があります。
たとえば、
「MA運用支援サービス」
と書くよりも、
「MAを入れたのに、メール配信ツールで止まっていませんか?」
と書いた方が、来場者は自分の状況に引き寄せて考えやすくなります。
「営業支援ツール」
と書くよりも、
「営業が今日追うべきリード、見えていますか?」
と書いた方が、会話のきっかけになります。
キャッチコピーは、サービス説明の入口ではありません。
来場者が自分の課題に気づく入口です。
ブース全体で「誰の何を変えるのか」を一貫させる
キャッチコピーだけを課題起点にしても、ブース内のパネル、デモ、接客トーク、配布資料がバラバラだと伝わりません。
たとえば、キャッチで、
「展示会リードを、名刺の山で終わらせない」
と打ち出すなら、ブース全体もそれに合わせる必要があります。
パネルでは、展示会リード活用の課題と改善ステップを見せる。
デモでは、MA/CRM上での分類やフォロー設計のイメージを見せる。
接客トークでは、「展示会後、どのリードから追うか決められていますか?」と聞く。
配布資料では、展示会リード活用チェックリストを渡す。
展示会後のフォローでは、リードの優先順位付けやフォロー設計に関する資料を送る。
このように、キャッチコピーは単なる言葉ではなく、ブース体験全体の入口です。
「誰に、何を、どう変えるのか」がブース全体で一貫していれば、来場者はそのブースを記憶しやすくなります。
展示会後のフォローまで見据えてキャッチを設計する
ブースのキャッチコピーは、展示会当日の足止めだけに使うものではありません。
展示会後のフォローにも影響します。
たとえば、ブースで、
「展示会リードを、名刺の山で終わらせない」
と訴求したなら、展示会後のメールでも、
「展示会リードを商談につなげるためのチェックリスト」
を送ると、来場者はブースで見た内容を思い出しやすくなります。
逆に、ブースではAIを打ち出していたのに、フォローでは一般的な会社紹介資料だけを送ってしまうと、来場者の記憶とつながりません。
展示会で成果を出すには、ブースの見た目や当日の接客だけでなく、展示会後のコミュニケーションまで一貫させる必要があります。
キャッチコピーは、当日の集客のためだけではなく、展示会後のフォローシナリオの起点でもあるのです。
まとめ:キャッチコピーは、来場者の課題に届く言葉になっているか
展示会ブースのキャッチコピーは、「AI」「DX」「自動化」といった流行語を掲げるだけでは不十分です。
もちろん、それらは来場者の目を引く入口にはなります。
しかし、それだけでは足を止めてもらう理由にはなりません。
重要なのは、技術名やサービス名を、来場者の課題や成果に翻訳することです。
誰の、どんな困りごとを、どう変えるのか。
その変化を一瞬で伝えることが、展示会ブースのコンセプトやキャッチコピーの役割です。
また、キャッチコピーはブース前で目立たせるためだけの言葉ではありません。
接客トーク、パネル、配布資料、デモ、展示会後のフォローまでをつなぐ、ブース体験全体の入口でもあります。
だからこそ、出展前には「そのコピーは本当に来場者に届く言葉になっているか」を確認しておくことが重要です。
そこで、展示会ブースのキャッチコピーを考える際に確認したいポイントを、チェックリストとして整理しました。
次回の出展準備では、単に「目立つ言葉になっているか」だけでなく、**「来場者が自分ごととして受け取れるか」「接客やフォローまで一貫して使えるか」**を、このチェックリストで確認してみてください。
ブースのキャッチコピーを、流行語で終わらせず、来場者との会話と次のアクションにつながる入口にするために、ぜひご活用ください。
取締役/常務執⾏役員
遠藤 美加
マーケティング戦略策定
関⻄学院⼤学経済学部卒業。住友ビジネスコンサルティング株式会社⼊社。マーケティング分野のリサーチおよびコンサルティング業務を経て、⽴命館⼤学(学校法⼈)に転じ、⼤学の⻑期経営計画づくりや産学連携事業を担当。その後、⼤阪市のソフト産業プラザにてベンチャーコーディネーター業務に従事。2000年4⽉、パワー・インタラクティブ⼊社。同年6⽉取締役、2003年常務執⾏役員に就任。全社の事業戦略を統括する。



