コラム

グローバルの動向から学ぶ、日本企業でのMOps構築の進め方

パワー・インタラクティブ セミナー事務局(文責)

テクノロジーの重要性が高まり、取り扱うデータ量が爆発的に増える近年、国内でもマーケティングオペレーション(以下、MOps)への注目が集まっています。

本コラムは、ゼロワングロース株式会社 取締役 廣崎依久氏をゲストに招いて開催したセミナー『MOps(マーケティングオペレーション)のグローバル最先端動向と日本企業のこれから』の内容を、弊社セミナー事務局がまとめたものです。前半は廣崎氏による講義の内容、後半はパワー・インタラクティブのマーケティングコンサルタント 山下智も交えてパネルディスカッションで議論した内容をもとに制作しています。

MOpsとは

MOpsとは、マーケティング活動における戦略と実行の間をつなぐ概念・組織・役割のことです。描いた戦略を実行し切るための戦術設計をMOpsが担います。

多くの企業はマーケティング戦略を立てる際、緻密な計画を練り、目指す方向性を明確にしています。しかし、戦略をどのように遂行するかといった戦術設計を入念に行わず、実行に移してしまうケースが少なくありません。そのような状態だと、緻密な戦略を描いたにもかかわらず場当たり的な活動にあってしまい、思うような成果を得られなくなってしまいます。

戦術設計が不十分なまま実行を進めてしまうと、このような問題が発生します。

・どの施策が収益向上に繋がったのか効果検証できない
・最適な人材を定義できず、人材確保が難航する
・業務が属人化し、一人の退職がマーケティング活動全体に致命的な影響を与える

図表1:多くの日本企業で生じているマーケティング課題

このような問題を解消する打ち手として注目を集めているのがMOpsです。

MOpsが注目される背景

MOpsの重要性が急速に高まった要因として、過去10年間でマーケティングテクノロジーツールが爆発的に増加したことが挙げられます。chiefmartec社が公開したレポート『2024 Marketing Technology Landscape Supergraphic — 14,106 martech products (27.8% growth YoY)』によると、2011年時点で約150種類だったマーケティングテクノロジーツールが、2024年には14,106種類にまで増加しました。

利用するマーケティングテクノロジーツールが増加することで、マーケティング担当者にかかる学習負担が増加する、適切なツール選定の難易度が高まるといった問題が生じていきました。

専門性を追求するマーケティング組織体制の構築
一方、日々のマーケティング施策を行いながら、テクノロジーについて学習し、適切なツールを選定して運用に乗せるところまで同じ人が担うことは現実的ではありません。そこで、フィールドマーケティングとMOpsの役割分担が進みました。

フィールドマーケティング マーケティング施策の実行に集中
MOps フィールドマーケターが施策に集中できるようオペレーション整備を担当

MOpsは、マーケティングで使用するツールの導入や設定、各ツール間のインテグレーション、得られたデータの分析といった裏方の役割を担い、マーケティング成果をより着実に生み出すための基盤を整備します。

米国におけるMOpsの動向

MOpsが認知され始めたのは、米国で10〜15年前、日本では約3年前からだといわれています。日本の先を行く米国におけるMOpsの動向を知ることで、今後日本企業が取り入れていくべき動きを見通すことができます。

マーケティングでのAI活用がトレンド

米国のMOpsでは、AIの活用がますます重要視されています。
これまで多くの企業がマーケティングデータの統合に課題を抱えていましたが、最近ではデータウェアハウスにデータを集約し、そのうえでアプリケーションを活用することで、データの一元管理を行う流れが強まっています。

図表2:各アプリケーションのデータを集約

データ統合により、局所的なパーソナライゼーションではなく、より包括的なユーザー体験の最適化が可能になっています。従来のような、メールの文面やクリエイティブ作成といった細かな作業レベルのAI活用を超えて、マーケティング活動全体にAIを組み込む動きが進んでいます。

さらに、AIを活用したマーケティング施策の自動化にも注目が集まっています。マーケティング業務においてAIで代替できる業務とそうでない業務を分別し、ほとんどの業務をAIで自動化するための動きが活発化しています。

レベニュー組織全体でのオペレーション整備にも注力

DevOpsが開発現場でデータ分析や効率化を支えていたのと同様に、ビジネス部門でもデータ分析やプロセス改善の重要性が認識され、MOpsやSalesOps、CSOpsといった部門ごとのオペレーション部門が生まれました。

各部門でオペレーションチームが発足し、オペレーションを改善していくと、個別最適という新たな問題が発生します。このような問題を解消するために、今米国企業ではレベニュー部門全体を跨いでオペレーションを最適化するRevOpsが取り入れられています。

図表3:RevOps構築によるAI活用の活性化

各部門のデータをさらに集約することで、レベニュー組織全体のデータプラットフォームを構築しています。全社のデータが一カ所に集まることで、あらゆる活動を収益と結びつけて分析したり、より包括的なデータをもとにしたAI活用に繋げたりといった取り組みが行われています。

日本企業におけるMOpsの現状と課題

欧米での動きを受けて日本でもMOpsを構築する動きが見られますが、まだまだ課題が多い現状です。

ここからは、パワー・インタラクティブで実施した『マーケティングデータ活用に関する調査』をもとに、パネルディスカッションで話した内容を解説していきます。

認知度は拡大傾向にあるもののデータ活用に課題あり

同調査では、日本でのMOpsの認知度は2022年から2024年の2年間で大幅に高まっていることがわかりました。

図表4:MOpsの認知度

しかし、MOpsの認知は進んでいるものの、マーケティングデータの活用は依然として進んでおらず、課題が大きいのも現状です。6割以上が「マーケティングデータの統合ができていない」と回答しています。

図表5:マーケティングデータの活用レベル

データ統合ができていないと、データを適切に活用できず、マーケティングの収益貢献を可視化することは難しくなります。データの統合は、できるだけ早く着手するべき課題といえます。

またマーケティングデータ活用における課題として、「データ分析スキルの向上」と回答した人が最も多いという結果になりました。

図表6:マーケティングデータ活用の課題

MOpsの重要性についての理解が進み、それに応じてデータ分析スキルの向上が大きな課題として浮き彫りになっています。

日本企業がMOpsを推進するためのポイント

調査結果からも読み取れる通り、日本企業のMOpsには多くの課題があります。MOpsを着実に推進し、オペレーション面からマーケティング組織を強化するためには、以下のポイントを押さえるとよいでしょう。

・統合されたデータ環境の整備
・ITや営業との綿密な連携
・マーケティングデータ活用人材の育成
・ロードマップの策定

まずは、MOpsの土台作りとして、統合されたデータ環境の整備が必要不可欠です。そのためには、ITの知識とマーケティングの知識を掛け合わせる必要があり、他部署との連携が求められます。IT部門との接点を持つことはもちろん、推進するにあたってキーマンとなる人材とともにデータ統合を推進するのが重要です。

また、MOpsの体制構築には、マーケティングデータ活用人材の育成も欠かせません。マーケティングとITの理解を深めるための体制づくりが、MOpsをより高次元まで高めていく上で重要です。

さらに、MOpsを推進するにあたってロードマップの策定も重要な要素です。MOpsの推進は基本的に、数年単位で進める長期的なプロジェクトとなります。長い目で見て最適なオペレーションを構築するために、日々やることを段階的に設計しておくことが求められます。

日本におけるMOps推進事例(旭化成エレクトロニクス株式会社)

日本企業におけるMOpsの推進事例として、旭化成エレクトロニクス株式会社の取り組みが挙げられます。

MOpsを推進した背景

旭化成エレクトロニクス社では、コロナ禍を機にデジタルマーケティングへの取り組みを本格化し、自己流のマーケティング運用ではなく、組織的かつ体系的なマーケティング活動を行うことの重要性を感じていました。また、マーケティング活動が収益にどのように貢献しているかを可視化する必要性も感じていました。

そこで同社は、収益貢献の可視化と体系的な施策実行を目指して、MOpsの構築プロジェクトを立ち上げました。プロジェクトを通して、MOpsの仕組みを整え、マーケティング活動全体が一貫性を持って機能する体制の構築に成功しています。

3つの成功要因

同社がMOpsの構築に成功した要因は以下の3点です。

・企業全体でマーケティング組織の体制を根本から見直した
・PlayBookを作成して知識の共通認識化を図った
・営業部門と連携し、MAとCRMを横断したキャンペーンマネジメントを推進した

全社的にマーケティング/営業の体制に課題があるという認識を共有し、経営層からのトップダウンでプロジェクトを推進していきました。その結果、全社的なオペレーションの改善を短い期間で実現しています。

マーケティングデータ基盤整備サービスの紹介

MOpsは欧米ではすでに浸透しており、日本でも取り入れる企業が増えています。精錬されたオペレーションは企業の競争優位性となり、マーケティング活動を通じた収益拡大に直結します。

MOpsの強化において最重要なのは、マーケティングデータ基盤を整備することです。サイロ化したデータを集約し、一気通貫でマーケティング活動の成果を可視化することから、オペレーションの強化が進んでいきます。

パワー・インタラクティブは、マーケティングデータ基盤整備サービスを通じて、お客様が収益への貢献をもとにマーケティング活動を評価し、意思決定するための支援をしています。マーケティング組織をプロフィットセンターへと変革したいと考えている方は、当社サービスの利用をご検討ください。

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